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2017年2月13日 ココロココ編集部

「内田未来楽校」がつなぐ、地域の歴史と人の輪。「いちはらアート×ミックス」を新たなきっかけに。

千葉県市原市の南部、旧南総町の内田地区にある「内田未来楽校」は、昭和初期に建てられ、一旦は民間に売却された「旧内田小学校」の校舎を、地域住民を中心に構成された「報徳の会」が5年計画で買い取る形で契約し、コミュニティの場として活用しているもの。2013年からは小規模な朝市やコミュニティイベントを開催し、地域の人が集まる場所として定着しつつある。

2017年4月からは「いちはらアート×ミックス2017」の会場の一つともなり、多くの来場者が見込まれている。訪れた日は2017年1月の土曜日、凧作りのワークショップや、展示に向けた作品制作が行われている、月に一度のにぎわいの日だった。今回は「報徳の会」の事務局長である、小出和茂さんにお話をうかがった。

地域の真ん中に希望を託して造られた

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▲旧内田小の空撮写真。当時は「内小」という人文字もつくれたほど生徒がいた。

「内田小学校」が建てられたのは1914年のこと。当時「内田村」だったこの地域の人々から、税金ばかりではなく、寄付金や労働奉仕などの提供も受け、立派な木造校舎が造られた。その頃は現存する建物と別にもう1棟大きな校舎があり、敷地は今の2倍以上の規模があった。立地もかつての陣屋(今でいう役場のような場所)の跡地であり、まさに地域の中心に、未来への希望を託されて建てられた校舎だった。

昭和30年代には300名近くの子どもたちが学び、子どもの数はピークに達した。しかし子どもの数が減少に転じると、中学校の統合が起こり、それにともなって「内田小学校」は移転。1965年には廃校となった。

廃校後、校舎は敷地と一緒に売りに出され、初めはモーター工場が入居した。しかし工場は間もなく火災を起こして閉鎖。大きい方の校舎は全焼してしまった。残った奥側の校舎はその後、工務店の作業場となり、30年以上もの間、地域の人々から遠い存在となっていた。

 

母校への愛で立ち上がった「報徳の会」

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▲「報徳の会」の経緯について話をする小出さん

やがてその工務店も廃業し、2012年、校舎は再び売りに出されることになった。ただし、その頃には敷地は当初よりも小さくなり、建物も半分以下になっていた。その時に「母校をこれ以上荒廃させまい」と立ち上がったのが、同校の卒業生や地域の人たちだった。

「いろんな災難もありましたけれど、この校舎は民間に移ったからこそ、残ったとも言えるんです。市(売却当時は南総町)がそのまま持っていたら、壊しちゃったかもしれませんから。で、それが2012年の暮れに、売りに出されたんですよ。何とか残せないものかと、有志で集まって対応を考えたんです。」

それが現在小出さんが事務局長を務める「報徳の会」の母体となった。小出さんたちは何度か会合を重ねる中で、自分たちで資金を調達し、買い取ることを決めた。

「みんなで買い取ろうと決めたんです。1,300万円だった価格も、何とか交渉をして900万円まで下げてもらって、それを5年間で返済するということで契約をしました。」

 

地域の未来を楽しくする”きっかけ”を

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▲校舎の前に作られた看板

取得した校舎に、小出さんたちは「内田未来楽校」という名前を付けた。「学」ではなく「楽」としたのは、内田の未来を、楽しみながら創造していこう、という願いを込めてのことだ。

「大人も子どもも、みんなで一緒になって、何か楽しめる事業をやりましょうと。やりながら、人と人とのつながりや、地域の活力を生み出していければ、という思いを持っています。先人たちが託した内田の未来への希望を、次の世代にも伝えて、残していきたいんですね。私たちには地域の少子高齢化や離農などの問題を“解決”することはできません。でも、”きっかけ作り”はできると思うんです。」

小出さんたちの熱い思いに賛同し、一緒に活動してくれるメンバーは50名を超えた。卒業生、地域住民、元教員。その顔ぶれはさまざまだ。メンバーが増えるとともに、活動の頻度も高まっていった。最も回数が多い活動は、毎週火・木・土曜日の3回開催されている、「内田の友 朝市」。野菜を持ち寄る人々、それを買いに来る人々、何をするわけでもなく、ただお喋りに来るだけの人。いろいろな人々が集まってくる。

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▲校舎内に広がる朝市。野菜からお米、漬物もあり、どれもびっくりのお手頃価格で売られている。

「朝市」を始めたのは、資金調達のつもりだったという小出さんだが、それ以外にも嬉しいことがあったという。
「やってみて気がついたんですが、野菜を作る方にだんだん意欲が出てきたんですね。需要があるということを知って、すごく頑張って作ってくださるんです。ここに来て1時間、2時間とお話をしているような方も多いです。朝市を通して、そういう、新しいやりがいや、交流の場も生み出せたのかな、と思っています。」

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▲この日は凧作りワークショップで地域の方々が子どもたちに丁寧に教えていた。

それに加えて、毎月2回、第3土曜日と日曜日には、さまざまなイベントやワークショップが開催され、地域の人々の新たな楽しみとなっている。内容は多岐にわたり、今回のように凧作りの場合もあれば、趣味の作品展示等の時もある。かつての昇降口部分を利用した「内田未来カフェ」では、市内の福祉施設「第2クローバー学園」で焼かれたパンの販売も行われる。冬には会のメンバーがドラム缶を置いて、美味しい芋を販売してくれる。ちょっとしたお祭りが、毎月行われているような感覚だ。

 

歴史ある校舎をつないでいく

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▲「違い棚」のある教室。昔は和室で畳が敷かれていたという。

「内田未来楽校」となった校舎は市原市に現存する、唯一の木造校舎であり、建築学的にも民俗学的にも、見どころが多いのだという。東日本大震災などの地震にも耐えた「トラス構造」と呼ばれる屋根の骨組み、和裁の授業のために、畳が敷かれていた名残のある教室、幾層にも違う素材が重ねられた土壁、風雨にもしっかり耐えた昭和初期のガラス。建築が好きな人にとっては見応えのある校舎だ。

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▲かつての廊下部分はそのまま残されている。戸やガラスもほぼ当時のものだ。

現在はそこに、大工、電気屋、石材屋など、専門の技を持つ旧内田小卒業生のメンバーが手を加え、現代的な快適さを共存させている。喫茶のテーブルや椅子は、家庭からの寄付。屋根の一部はクラウドファンディングで資金を集め、補修した。

校舎の裏側も面白い。会の名前の由来ともなった「報徳井戸」という横井戸は、裏山の斜面に36mもの横穴を掘ったもので、今でもきれいな水が、蛇口をひねるだけで出てくる。

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▲校舎裏にある「報徳井戸」。きれいな水がある証拠に、ここにはサワガニやトウキョウサンショウウオもいるという。

 

「いちはらアート×ミックス2017」と「内田未来楽校」

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▲ワークショップの参加者と話すキジマ真紀さん(右)

この「報徳の会」の取り組みに魅了された一人が、4月から開催される「いちはらアート×ミックス2017」に参加するキジマ真紀さんだ。キジマさんは東京出身のアーティストで、「市原湖畔美術館」で何度か作品を展示したことがあった縁もあり、今回参加することになった。4月からの作品展示に向けて、この校舎で住民の人々と一緒に制作に取り組んでいる。

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▲「いちはらアート×ミックス」で校内に展示される「てふてふ」をつくるワークショップ。4月からの「いちはらアート×ミックス2017」でも開催予定。

「私は展示の場所として、たまたまこの学校を紹介していただきました。『内田未来楽校』の皆さんのお話を聞く中で、”この地域の方一人ひとりにアーティストになってもらいたい”と思って、この展示を考えました。今は、この展示をすることで、この場所の“輪”が広がっていけばいいな、と思っています。

とにかく、ここに関わる方の熱意がすごいんですよ。単なる地域おこしとかではなくて、彼ら自身も楽しみながら、つながっていこうとしているんです。だからすごくパワフルだし、私も協力していて、すごく楽しいです。」

展示される作品は、家庭に眠っている余り布を使い、個性豊かに作られた「てふてふ(ちょうちょ)」たちを教室内に配置するもの。この日も行われていた「てふてふ」づくりのワークショップで、「上手に作ってありますね」と、ご近所在住の「アーティスト」たちに見せる笑顔は、キジマさんの心からにじみ出たものだった。

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▲これまでワークショップ参加者がつくった色とりどりの「てふてふ」。4月からは校舎の至るところに展示される。

ここでの、はつらつとした人々の姿に魅了されたアーティストや作家さん、イベントのプレゼンターも多いという。お金ではなく、人と人とのつながりが原動力となって、この場所は輝きを増しているのだろう。SNSを使った情報発信も積極的に行っており、今では地域以外から来る人も増えつつある。「いちはらアート×ミックス」でも、沢山の人の来場があることだろう。

 

明るい未来は人の輪がつくっていく

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▲カフェで販売されているパン目当てにやってくる人も多い。

「いま、全国いたるところに廃校があります。その利用方法に困っているところも多いと思います。でも、どこかの真似をするのではなくて、地域にある、足元のものを活かすべきだと思うんですね。ここは木造校舎だから、それを活かして整備したり、サワガニやメダカもいるから、そういうものに触れる企画を考えたり。内田にしか無い魅力を、大事にしています。あとは、人ですね。地域の人が、自分が持っている能力を発揮しながら、再生することです。うちも一番の財産は、やっぱり、人だと思っています。」

地域の再生は、外部の人に頼っていてはいけない。地域の人が立ち上がり、動いてこそ、明るい未来があるというのが、小出さんの持論だ。

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▲「報徳の会」事務局長の小出さん。取材中にもいろいろな人を紹介してくれ、そのつながりの多さに驚かされた。

「地域の人口も減っている中で、何もしなければ、どんどん落ち込むだけです。やっぱり、何かを変えることが必要だと思うし、その変化を、地域の方にも感じてもらうことが大事だと思っています。お年寄りだって、やれることがあるんですよ。お花を飾ったり、ここに野菜を出したり。何もしなくたっていいんです。ここに来て、話をすることで元気になれれば、それはそれでいいと思うんです。みんなで下を向かずに明るい未来を夢見て、やっていますよ。」

自らが動き、変化し、変化させることで、地域に元気を取り戻したい。その拠点として、地域の中心地点にあり、心のよりどころでもある「学校」は、格好の舞台なのだろう。

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▲地域の手によって活気を取り戻していく。補修・整備の様子はHP・ブログで公開されている。

「内田未来楽校」の取り組みは、まだまだ始まったばかりだ。だが確実に、その「輪」は広がってきている。先人たちの思いを、過去から現在へつないでくれた木造校舎。その思いは「報徳の会」によって、確かに受け止められた。そしてこれからも校舎とともに、内田地区の未来へと、受け継がれていくことだろう。

取材先

内田未来楽校「報徳の会」

住所:千葉県市原市宿174-8

https://uchidamirai.jimdo.com/

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