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2017年3月2日 ココロココ編集部

思いきって始めた田舎生活。 市原で暮らして生まれた「Mai Cafe」は、 家族の幸せを得るための最適解だった。

遠方からも常連客が来る「マイカフェ」を営む國岡さん一家は、東京出身のご主人と、熊本出身の奥様に5人のお子さんという大家族。ベッドタウンの八千代市に暮らし、ご主人は都心でサラリーマンとして働いていたという。

子育てを理由に仕事を辞め、10年前に田舎暮らしをスタートさせた國岡さんに、移住後の暮らしやお店のこと、こだわりのチョコレートづくりなどについてお話を伺った。

「マイカフェ」の看板

市原市田淵地区。最寄りのコンビニまで10キロ。駅までは2キロ以上、電車は1時間に1本だけ。「市原市にこんな田園風景があったんだ」と、誰もが驚くような場所に「マイカフェ」はある。目印は田んぼの畦道に立てられた、小さな木の看板。砂利道をずんずん進んでいくと、木造のオシャレなカフェが目に入ってくる。

カフェの主は國岡さんご夫婦。二人三脚で地元食材を使ったヘルシーな料理と、世界各国の美味しいシングルオリジンコーヒー、自家製のソフトドリンク、カカオ豆から手作りする「超こだわり」のチョコレートを提供している。どれ一つをとっても話題に欠かないような品々であり、それぞれに多くのファンを抱えている。

コーヒーを淹れる陽太さん

訪れる人は、地元の人々はもちろん、木更津などの近隣都市から来る常連さん、またはアクアラインを渡って来る人、ゴルフ場の帰りに立ち寄る人など、とても幅広い。その誰もが楽しみにしているのは、カフェの窓から見渡せる田園風景だ。冬は黄金色に輝き、春は水をたたえ、夏には青く茂り、やがてまた黄金色に変わっていく。この「日本の原風景」が、店の魅力をいっそう増している。

 

地域に寄り添い、生み出すこだわりのメニュー

二人の営む「Mai cafe」では、昼は旬の食材を主役にして、ご飯と味噌汁が付いた一汁三菜仕立ての「昼膳」が人気だという。その後、カフェタイムになれば、コーヒーや手作りのドリンクを目当てに訪れる人も来る。そしてもう一つ、この店の名物になっているのが、チョコレートだ。

「一般的に売っているチョコレートは、基本的には製菓用のチョコレートを仕入れて、それを溶かして作っているんです。だから製菓用チョコレートの製造会社によって、“これはどこの、何という(製菓用)チョコだから、高級だね”っていう感じなんです。でもそれとは別に数年前から、カカオ豆からチョコレートを作る流れがあって、うちでも始めてみたんです。」

カカオ豆
▲チョコレートに使用されているカカオ豆

「まだまだですが」と謙遜するご主人だが、そのチョコレートは口に含むとスッと溶けて消えてゆく、未体験の味わい。ざらりとした舌触りは、既存のチョコレートでは出会えないものだ。最後にはベリーのような芳醇な残りがを残す。材料原価が高く、手間も非常にかかるため、高級な品となっているが、値段以上の美味しさに出会えることだろう。

こだわりのチョコレート
▲販売されているチョコレート

最寄りの駅も街も遠い環境、ましてやこだわりのフードメニューを提供しているとあれば、食材の確保には難儀しているのではないか。そんな質問にも、意外な答えが返ってきた。

「うちは地元のもの(食材)がけっこう多いんです。できるだけ直売所で買ったり、近所の農家の方に譲っていただいたり、頼んでお野菜を作ってもらったり。基本的には季節のものを使って、あるもので作るっているんです。無いものを、無理やり仕入れて作るっていうことは無いので、不便は無いんですよ、むしろ都会とは違って、新鮮なものが簡単に手に入るんです。」

確かに、放し飼いの鶏の有精卵、朝どれの野菜、地元養豚場の豚肉、裏山産の野生桑の実、木イチゴ。都会では手に入らないものが、とても簡単に、安く手に入る。そういったものをうまく使っていけば、十分に魅力的なメニューを作ることが可能である。カフェのご飯には、目の前の田んぼのお米を使用している。実は、「マイカフェ」の英字表記は「Mai Cafe」。「米」の意味であるそうだ。

今でこそ、順調な「Mai Cafe」だが、実は、國岡さんご夫婦は、始めからカフェをしようと思っていたわけではなかったという。

 

カフェは手段であり、目標ではない

ご主人の國岡陽太さんは東京都内の出身。奥様は熊本の出身で、移住前は千葉県八千代市に自宅を構えていた。

「ここに来たのは、1番上の子が小学校に上がるという時でした。うちは奥さんが熊本の田舎の出なので、なんとなく、都会で子育てをしていくイメージがつかなかったようです。それに、田舎のほうが、子どもを放っておけるじゃないですか。」

家族の住むログハウス
▲家族の住むログハウス

長柄、茂原、市原市内など、近辺でいろいろと中古物件を探し回り、ようやく出会ったのが、里山に寄り添うように建つ、一軒家のログハウスだった。このログハウスで、新しい生活が始まった。

移住したいきさつについて話を聞いていると、ここで意外な話が飛び出してきた。

「実は仕事について、あまり深く考えていなかったんです。深く考えたら、何もできないですから。僕は、仕事を辞めてこっちに来て、最初は何も仕事が無かったんです。来てから大工さんと知り合う機会があったので、その大工さんのところでアルバイトをさせてもらいました。そこでは家を建てる勉強もさせてもらって、1年ぐらいで、建物を2棟、建てるのを手伝いましたね。」

國岡陽太さん

仕事の事を考えていたら、行動ができない。でも、時間は過ぎてゆく。その中で、陽太さんは、「とりあえず来ちゃえ」と、清水の舞台から飛び降りた。幸い、舞台の下にはちゃんとネットがあって、地元の方が快く迎え入れてくれたというわけだ。大工仕事を経て、「これなら、自分の家の庭に何か建てられるのではないか」と実感した陽太さん。そこに「カフェ経営」という選択肢が芽生えた。

「大工をずっとやるつもりは無かったですから。でも、どこかに就職しようと思っても、近くに働き口は無いですし、通勤で時間を無駄にして、家族との時間が減ってしまっては本末転倒です。じゃあ、自宅でできることは何だろうって考えた時に、カフェにしてはどうか、ということになったんですね。ふたりとも、飲食の経験は全く無かったんですけれども。」

目の前には一面田んぼが広がる里山の中にポツンとある
▲里山風景に溶け込む「Mai Cafe」

かくして未経験の夫婦ふたりが、自分たちの手で建物を作り、カフェの開業に挑んだ。建物の骨組み作りだけは大工さんにも手伝ってもらい、内装などその他の部分はすべて自分たちで、手作業で仕上げていった。ようやく完成したのは、着工から1年半が過ぎた頃だったという。

開けた里山にたたずむ「Mai Cafe」は、大きな窓に向いたカウンター席のみ。自作という内装や白を基調とした店内は、コーヒーの匂いと日の光のやわらかい雰囲気に包まれていた。

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▲カフェの中はお二人の人柄が伝わってくる暖かい空間

果たして、田んぼの中に建ったカフェ。不安は無かったのだろうか。

「もちろん不安でした。場所に関しては、いい面、悪い面があって、田舎のこういう場所ですから、通りすがりに入ってくれる、ということは皆無なんです。もっと人が多いところだったらな、って思ったこともありますけれど、一方で、こういうとろこだと、わざわざ来てくれる方も多いんですよ。検索して情報を集めて、すごく楽しみにして来てくれる方や、口伝てで来てくれる方や。そうやって、人から人へじわじわと広がっていくという点は、田舎ならではの魅力だな、と思います。」

何度もリピートしてくれたり、遠方から来てくれたり。良いお客さんに愛され、支えられて、7年続いてきた。それが「Mai Cafe」の今の姿だ。

 

やることばっかりでも、その内容も質も違っている

陽太さん02

通勤時間による時間の消費と体力の消耗を抑え、その分を、家族への愛情と、より手間のかかった、上質な仕事へと振り向けている陽太さん。

「外に働きに出ることは、子育てをするうえで、無駄な時間がすごく増えることなんです。だから自分は、できるだけ家のそばにいたいと思っています。なるべく、引きこもっていたいというのもあるんですが(笑)。」

「でもここにいて、本当に暇なことって、そんなに無いんですよ。やるべきことが一杯あって、やりたいことも一杯たまっているので。薪割りなんかもやりますよ。薪がなくても生活はできますけれど、薪ストーブはすごくあったかくて、気持ちがいいんです。灯油代もかかりませんし。お風呂も実は、薪なんですよ。」

そう言って皺を浮かべて笑う陽太さん。その笑顔には「来てよかった」という気持ちがあふれているように見えた。

カフェ経営や仕込み、チョコレートづくり、家事に子育て。忙しい毎日を送っているが、そのどれもを自分たちが「豊か」となるプロセスとして納得できている、話を聞いているとそんな印象を受ける。

國岡さん家族

里山と田んぼを眺める日々が始まってから、およそ10年。國岡さんファミリーの移住は吉と出たのか、凶と出たのか。その答えは、家族の表情をみれば、一目瞭然である。

取材先

Mai Cafe

住所:千葉県市原市田淵1539

http://maicafe.net/

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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