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2019年3月19日 ココロココ編集部

南房総らしいローカルビジネスのかたちを目指す、南房総2拠点大学の取り組み

現役世代の地方移住が増えていく中で、大きな課題のひとつとなっているのが仕事の問題だ。「地方には仕事がない」とはいわないが、やはり都心と比べて、就業の場・機会の多様性に欠けるといわざるを得ない。「やりたい仕事がないならつくればいい」ということで、最近では「地方に移住して起業したい」という人も増えてきている。
しかし、実際のところ、地縁のない地域に移住して、いきなりイチからビジネスを立ち上げるというのはかなりハードルが高いというのも事実だ。

千葉県南房総市では、東京から90分程度というアクセスの良さを生かし、東京と南房総をいったりきたりしながら、自分らしい働き方、ビジネスのあり方をつくっていくための講座「南房総2拠点大学」を開催している。ココロココ編集部も企画運営に関わり、今年度3年目となるこの取り組みについて、担当者や参加者に話を聞いた。

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担当者に聞く、南房総2拠点大学の狙いと可能性

「南房総2拠点大学2018」は、2018年9月~2019年3月にかけて、全4回にわたり、南房総と東京を交互に行き来するかたちで開催された。
35名の参加者の多くは東京・首都圏在住のメンバーだが、中には南房総エリア出身・在住の人やすでに移住をしている人、2拠点生活を実践している人なども含まれる。

この講座を主催する南房総市商工観光部商工課の金井良介さんは、起業家向け講座立ち上げの経緯をこう語る。

南房総市の金井さん

「事業を立ち上げた当時の考えでは、「仕事」を作り「お金」を循環させ経済を活性化させる目的の一つとして「企業誘致」「起業」の2つををとりあげました。しかしながら、工業団地等もない南房総市では、大きな工場や企業を誘致するのはハードルが高い。 その中で、東京からの距離という利点を活かした、移住者や2拠点居住者などの個人による「起業」の方に、徐々にシフトしていったんです。」

この事業を民間の立場で企画運営しているのが、株式会社ココロマチ・ココロココ編集部と、合同会社AWATHIRD(アワサード)の永森昌志さんだ。

永森さんはもともと東京出身だが、2拠点生活を経て2013年に南房総に移住。合同会社AWATHIRDを立ち上げて、市の移住プロモーション等のプロジェクトを手掛けるほか、南房総公認プロモーターとしても活動をしている。築300年の古民家を改修したシェア里山「ヤマナハウス」の主宰者でもある。
→永森さんインタビュー記事:https://cocolococo.jp/7851
→ヤマナハウスインタビュー記事:https://cocolococo.jp/21707

自らも移住者であり、起業家でもある永森さんは、南房総2拠点大学との関わりをどう考えているのだろうか?

永森さん

「関わる以前よりも、南房総全体のことを考えるようになりましたね。この土地の地域課題は何か?という視点を常に持ち、課題が資源に反転する可能性こそが起業や小商いのチャンスだと捉えるようになりました。

自分個人のつながりもたくさん増えましたが、それ以上に市内外の参加者、講師、リーダー、行政の間での交流が増え混ざってきているのが本講座の開催した大きな成果のひとつだったと感じています。」

ココロココを運営する株式会社ココロマチは、2015年から南房総市の事業に関わりはじめ、2016年には南房総市白浜町の廃校活用施設に、サテライトオフィスを設置。ココロココ編集長として、公私で南房総に通う奈良はこう話す。

奈ココロココ編集長・奈良

「南房総の魅力は、東京からの距離感と、それが生む関わり方の多様性なのではないかと思っています。起業といっても、しっかりとビジネスモデルを検討し事業計画を立てて行っていくものもあれば、理想とする暮らし・ライフスタイルの先にあるナリワイをカタチにしていくようなものもある。東京から近いがゆえに、東京でも仕事を続けながら、少しずつ収入の割合を南房総に寄せていくというスタイルも可能です。それぞれの人が、自分らしい関わり方や働き方を考えられる環境があり、それが南房総2拠点大学のテーマの多様性、面白さにつながっているのではと感じます。」

講座の主催・企画運営担当者が、2拠点大学を振り返る座談会の様子

講座の主催・企画運営担当者が、2拠点大学を振り返る座談会の様子

今年度が3回目の開催となった南房総2拠点大学。1回目の開催のときには、地元の巻き込みが足らなかったこともあり、企画プレゼンの内容自体は素晴らしかったものの、そこから具体的な動きにはつながらなかった、という反省点もあった。

普段会えない人たちと地域のことを真剣に考える貴重な時間

「地域でビジネスをつくる」という課題に取り組むには、地元側の協力が不可欠だ。
南房総2拠点大学2018では、前回までの反省も踏まえて、地元キーマンや移住者で、すでに地域でのビジネスに取り組んでいたり、プロジェクトを進めている方をリーダー、メンターに迎えて講座を進行した。

民宿街再生チームのリーダーを担当したのが、南房総市出身でUターン者である福原巧太さんだ。福原さんは、家業である福原建築の仕事をするかたわら、地元の若手メンバーからなる富山地区地域団体「i.PLANNER」の副代表もつとめ、さまざまなイベントを企画運営するなど、地域活動を行っている。
今回の講座でも、ヨソモノである参加者と、岩井民宿街のオーナーやキーマンなどを繋ぐ役割を果たした。

i.PLANNERの福原さん

「私自身は、i.PLANNERの活動を通じて、移住者の方などと交流する機会も多いのですが、とにかく「ヨソモノ」という意識は持たないようにしています。率先してオープンな姿勢をとり、外からの人が来やすいように地域の窓口を広げるように心がけています。」
と語る福原さん。

「ただ、やはり地域の方々の中には、頑なに「ヨソモノ」意識を持っている方がいることも事実ですし、そういう方が地域で一定の実権を握っていることも多いんです。変革の意識を持ってもらうためにも、まずは自分たちが地域に寄り添い、外の人とのパイプ役を果たしていきたいですね。」

福原さんがリーダーを務めた民宿街再生チームは、講座開催日以外にも、何度も現地に足を運び、福原さんの紹介で民宿の経営者に話を聞いたり、空き家を紹介してもらったりと、積極的に活動をつづけた。そして、岩井エリアの活性をテーマとしたNPO法人「OctBASE南房総」の立ち上げにこぎつけた。

民宿街チームの岩井エリアでの視察の様子

講座以外の日にも自主的に集まり、岩井エリアの視察を重ねた民宿街チーム

「今回、初めて2拠点大学に関わらせてもらって、普段知り合えない方々と、地域のことを真剣に考えて活動出来たことは、本当に素晴らしいことだったと思っています。民宿街チームは、約半年間の活動を経て、NPO法人を立ち上げて、まさにここからがスタートというところ。より一層地域を巻き込みながら、協力を得られるように、少しでも多くの方に賛同して頂き、私達の思いを伝えていけるようにしたいですね。」

卒業生も講座に関わり、つながりを広げていく

とはいえ、「地域でビジネスをつくる」というのはなかなか難しく、講座を受けただけで簡単に始められるものではない。そんな中、講座終了後も着実に活動を続けている人もいる。

2017年度の「小商いコース」に参加し、その後、2018年6月にとんかつ屋「みやはん」をオープンさせた宮寺光恵さんに話を聞いた。

「南房総2拠点大学に参加して、南房総市には面白い人達が沢山いる事がわかりました。
どなたの発想も大変興味深く、参加してなければ知り合えない方の声も改めて聞く事も出来ていろいろと参考になりました。また 参加者の方々のその後の活動も気になる事ばかりで とても楽しみです。」

南房総2拠点大学の企画発表会で発表する宮寺さん

南房総2拠点大学の企画発表会で発表する宮寺さん

「お店の方はまだまだですが、少しづつ口コミでお客様も増えてきて、近くの須藤牧場さんから 濃厚な搾りたて牛乳を直接仕入れるようになってクリームコロッケがさらに美味しくなったり、宮本養鶏さんから新鮮卵を配達してもらったり、地元のこだわり食材でおもてなしが出来るようになって、充実してきたなと感じています。」

南房総2拠点大学でできた関係性は、講座終了後も続いている。
お店オープンの直前には、2拠点大学の同窓生を招待した試食会が開催され、オープン後も、講座でつながったメンバーがたびたびお店を訪れているという。そして、今年度の南房総2拠点大学2018では、お昼のお弁当として、みやはんのとんかつ弁当が用意された。

南房総2拠点大学2018で提供された宮寺さんのお弁当

南房総2拠点大学2018で、前年受講生である宮寺さんのお弁当が提供された

卒業生が関わる例は他にもある。
同じく2017年度に「小商いコース」を受講した元沢信昭さんは、小商いの1つとしてコーヒー豆の焙煎とネットでの販売をスタートした。
元沢さんには、今年の講座ではOBとして関わっていただき、小商いコースメンバーにコーヒーを振る舞い、講座終了後の小商い状況などを話してもらった。

小商いコースメンバーに、自家焙煎コーヒーを振る舞う元沢さん

小商いコースメンバーに、自家焙煎コーヒーを振る舞う元沢さん

このように講座終了後も参加者、OBなどが緩やかに繋がりながら、小商い・ビジネスを続けている。

南房総2拠点大学の成果と課題、これからについて

最後に、3年間続けてきた中で感じている成果や課題、今後の展開について、冒頭に紹介した担当者3名に話を聞いた。

座談会の様子

金井:「市としては、2017年度に3事業者の起業につながり、2018年度にも数件の起業が想定されているという実績を評価しています。個人的にも通年携わり、うまくいかなかった点もありますが、そもそも起業のような取り組みは「うまくいかなくてあたりまえ」だと思っていたので、結果には満足しています。市としては、いかにして起業をサポートしていく体制をつくれるかが課題ですね。」

講座そのものについても、続ける中で見えてきた課題もある。

奈良:「1回目、2回目と回を重ねるごとに、運営である我々自身も、地元の方たちとの関わりが増えていって、講座の座組に、地元の方に関わってもらえる体制がとれるようになってきました。それによって、企画の実現性が高まったり、講座終了後の継続が可能になっているのは、本当にありがたいことです。一方で、どうしても、『地元の方の負担が大きくなり過ぎていないか?』というのは気になってしまいますね。参加者と地元の人のコミュニケーションがうまく進むか…というところには、すごく気を揉みます。」

永森:「その一方で、地域に馴染むかどうかを気にかけすぎると、企画の面白さが半減してしまうという場合もありますよね。ヨソモノは、ある種の「違和感」を地域にもたらすことも大事な役割だと思ってます。違和感を全く抱かないものは新しさにも欠けるという視点もありますし、ある種の摩擦から新しい価値が生まれることもあると思うんです。」

地元をうまく巻き込みながら、地元には無い新しいビジネスをつくっていくためのバランスは、今後の事業展開でも重要なポイントになりそうだ。

今後、南房総で期待されるのはどういうローカルビジネスか、今後の展開についても話し合った。

永森:「やはり地域課題を種としたビジネス。獣害でも域内交通でも空き家でも、それらの解決自体が新たな事業となると良いですね。」

南房総2拠点大学には、大きく分けて、南房総の資源や課題を踏まえてビジネスをつくっていく「社会起業コース」と、個人の興味の延長からビジネスをつくっていく「小商いコース」の2コースがある。

永森さんは、「社会起業」型のビジネスを期待しつつ、スタートの仕方としての「小商い」の有効性にも触れた。

永森:「結局のところ、移住するのは個人や家族単位です。つまり個人が何に興味を持ち、どのような自己実現をしたいかということが、ローカルではそのまま形にしやすいので、「小商い」との親和性が高いんです。小遣い稼ぎや副業的なままマイペースに続けていっても良いし、「小商い」の規模を徐々に大きくしていってもいいんです。」

南房総2拠点大学2018企画発表会の様子

南房総2拠点大学2018企画発表会の様子

働き方や暮らし方の価値観が多様化する中で、個人の興味や自己実現からスタートする起業は、今後も増えていくだろう。その中で、東京から90分圏内にありながら豊かな自然が残る南房総は、2拠点、多拠点、小商い、副業…など、さまざまな関わり方・濃度でのローカルビジネス拠点になっていきそうだ。

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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