まずは城内エリア、「陶芸メッセ益子」内の旧濱田庄司邸で開催中の「益子の原土を継ぐ」展。益子で採れる3種類の原土、「北郷谷黄土」「新福寺桜土」「大津沢ボクリ土」を使って、陶芸家・染織家・日本画家・左官24名の作家が、普段の仕事の範疇に囚われない表現に挑戦している。そのごく一部をご紹介しよう。
▲若杉修「丸く丸く・・・鋭くPART2」
▲川崎萌「陶印 花器」
▲宮澤美ち子「益子原土染め」
▲古田和子「アカメガシワノミガナルコロ」
同じ敷地内の芝生広場には、濱田庄司の「工芸村」構想をヒントに生まれた手仕事村がある。
益子や近隣地域の竹林から切り出して作られた竹テントが30棟。土や木から植物、革、布まで、様々な素材を用いた手仕事が並び、地元農家の野菜、パンや焼き菓子なども販売されている。濱田以降、全国各地から作り手が集まり、その風土が脈々と続いている益子ならではの「土着」を感じられそうだ。高台の緑あふれる空間で、のんびり散策を楽しもう。
益子、笠間の作家ブース。同じ土ものでも陶器からオブジェまで、十人十色。見ているだけでも楽しい。
「Maharo」の革作家、見目英さんは福井県出身。2003(平成15)年に益子に移り住み、この土地で育まれている暮らしに衝撃を受けたという。
「福井では、何か必要なものがあればお金を払って、誰かに頼むのが当たり前だったけれど、益子に来てみたら、周りの人たちは皆、必要なものがあれば、あるもので何でも自分で作ってしまう。こんな暮らし方があるんだなあと目から鱗でしたね。これまでは自分がものづくりで生活するなんて考えたことなかったけど、価値観が変わりました。」
直径約140cmもある小野正穂さんの大皿。紐状の粘土を積み重ねて成形する「手びねり」の作品で、登り窯に斜めに入れて焼いたため、それぞれの皿が歪み、ゆったりとした曲線を描いている。
福島県出身の小野さんが益子に引っ越したのは、33年ほど前。瀬戸で焼き物修業をした後、益子を訪れ、昔ながらの蹴ろくろによる成形と登り窯焼成に心惹かれ、陶芸家、成井立歩さんのもとで学び始めた。
「ずっと、もっとプリミティブなものを作りたいと思っていて・・立歩さんの影響は大きかったなあ。寸法で型通りに作るんじゃなくて、気持ちで作れ~って言われてね。実際に住んでみたら、ごじゃっぺ(栃木弁で“いい加減”)というか、瀬戸にはない自由な空気があって、心地いい。田舎なのにオープンで、面白い土地柄だよね。」
会期中は、ものづくりを体験できる様々なワークショップが日替わりで開催されている。事前予約が必要なワークショップもあるので、土祭公式サイトで事前に確認しよう。
http://hijisai.jp/blog/tsugu/5533/
▲ひょうたんを使って作るランプとオブジェのワークショップ
▲墨絵でTシャツに絵を描くワークショップ
さて、この日、村で注目を集めていた食べ物と言えば、益子土を再現したエスプレッソコーヒーのアイスに、伝統釉に見立てた3種のソースを選んでかける「土祭特製アイス」。
噂を聞きつけた益子在住の陶芸家、大塚一弘さんと造形作家のKINTAさんも、「柿釉、美味いな」「土のざらつきまで表現してる!」と満足そう。
車を5分ほど走らせ、里山風景が広がる西明寺エリアへ。
かつて、この地区に流れる百目鬼川の水辺には、小さな黄色い花を咲かせる多年生水生植物、コウホネが生息していた。「風土・風景プロジェクト」を通して浮かび上がってきたその町の記憶をもとに、新たな企画「ドウメキのコウホネ」が生まれ、農家や「百目鬼川をきれいにする会」などの町民たちが協力し、コウホネが生きられる自然環境を長期的に育もうとしている。
土祭の旗を道標に林の中へ。
林を出て、看板の先へ更に歩いていくと、彼らがコウホネを待つ谷津田に辿り着く。水のほとりに澤村木綿子さんの作品「ユク」が、守り神のように佇んでいた。どんな姿をしているのか。それは、この小径を歩いた者のみぞ知るということで、是非散策をお勧めしたい。
こちらは旧市街地の本通りエリアにある「まちなか映画館」。50年ほど前に閉館した「太平座」を復活させようという町民の声で、ヒジノワCAFE & SPACEが期間限定の映画館に。昭和にタイムスリップしたかのような空間で、町の“興行師”が連日選りすぐりの作品を上映、懐かしい映画のパンフレットや書籍も販売中だ。
駅に程近い裏通りには、山の神様が祭られていたという見晴らしの良い丘がある。「虚空蔵さまの丘」と名付けられたこの丘で、2つの小屋が展示されていた。
高山英樹さんの「益子の暮らしが見える小屋」は、六畳ほどの小屋と家具を自作し、益子の暮らしを再現したもの。建物の構造も意識的に可視化させた。
「生活ぶりだけでなく建物を身近に感じ、自分でも作れるかもしれないと思ってもらえたら・・と、このような形にしました。この作品は、僕自身の益子の暮らしをコンパクトに表したものですが、“暮らしを手作りする”風土の表現でもあり、提案でもあります。
僕は石川県の能登出身ですが、ここに移住する前は東京で洋服を作っていました。ふと考えてみると、“ただそこにいる”だけでお金が出ていくって、不思議なことですよね。若くてお金もなかったし、必要なものってそんなに沢山あるわけでもない。じゃあ手作りしようと思えたというか、益子はそれが許される町。ここに来て、自分の時間で生きられるようになりました。」
まるで絵画のように切り取られた夕暮れどきの益子町。画家で、造形作家の仲田智さんが、ありあわせの材料で作ったという四畳半の小屋の中に入ると、四方の窓が異なる風景画サイズにくりぬかれている。壁には訪れた人たちの目に映った「絵」の名前や感想が記されていた。
町内全域を回るには、とても1日では足りないが、展示という「窓」を通して、様々な自然と人の営みに出会える土祭の旅。帰り道、見慣れた風景がちょっぴり違って見えるかもしれない。
▲19日~21日、26日、27日に開催される「夕焼けバー」。夕暮れ時から夜まで、土舞台で演奏される音楽と益子の食を堪能できる。
<土祭情報>
・土祭2015公式サイト:http://hijisai.jp/
・土祭パスポートは500円。町民・中学生以下は無料。会期中何度でも利用可。
・公式ガイドブック「土祭りという旅へ」:http://hijisai.jp/blog/tsutaeru/tsutaeru1/5774/
「事前にじっくり読み込んでから訪れたい」という過去の来場者からの要望に応えて、開催前から公式サイトで販売中。この祭りの土台になっている益子の風と土、人の営みを柔らかく編みこんだ小説のような一冊。