農園直営レストランでランチ&農園見学
今回のツアーに参加したメンバーは15名。前回の11月に実施した第1弾の顔ぶれに加え、関東からの参加もあり、終始和やかな旅となりました。
ツアーは、徳島県東部、徳島空港から車で約20分走ったところにある藍住町の「農園直営旬感ダイニングアクリエ」でのランチからスタート。ここは、同町の水耕栽培農場・カネイファームが運営するレストランです。使用する食材は、カネイファームの葉物野菜はもちろん、9割が徳島県産のものとなっています。
美味しいランチを食べたあと、一行はカネイファームを訪問しました。こちらでは、県内でもめずらしいグローバルGAP認証を取得し、国際基準に照らして徹底的生産工程管理を行っています。最近では、食用の藍の栽培にチャレンジ中。新しい食文化の創造にも取り組んでいるそうです。
ハウス内では、スタッフの加戸さんよりカネイファームが水耕栽培をスタートしたきっかけや、分散農場による天候災害のリスク管理、フリルアイスの生産工程についてなどの詳しい説明を受けました。カネイファームが面白いのは、水耕栽培だけでなくレストラン事業を展開することで、農園はもちろん県産野菜のPRや、シェフ目線での商品提案を行うことも目的にしているところ。参加者からは水耕栽培のメリット・デメリットや、特徴などに関して突っ込んだ質問が飛び、充実したひとときとなりました。
「お接待」の文化が息づくひなの里・勝浦町にて、ツアーのポイントをチェック
次に向かったのは、徳島市内から車で30分ほど走ったところにある勝浦町です。勝浦町は、町民主体のひな祭りや古民家といった“見える資源”と、自然に息づく「お接待文化」という“見えない資源”をうまく組み合わせることで、地域の良さを次世代につないでいこうとする住民の熱い思いがあふれる町です。まずは移住交流施設「レヴィタ勝浦」にて、ツアーの監修者である徳島文理大学総合政策学部の床桜英二教授から今回訪れる各市町の見どころとポイントについて説明がありました。
床桜教授によると「徳島の農業は、客観的に見て“衰退しながら成長”しています。野菜の作付面積は減っているものの産出額は増えている。つまり農業は大きなトレンドとしては衰退しているけれども、こだわりを持つ野菜の展開や効率的な生産をするなど、やり方によっては十分ビジネスになり得る」とのこと。食を支える農業は必要産業であることは間違いないので、今不足しているところをどうカバーしていくのか、あるいは効率的にやっていくのかを見極めることがポイントということでした。また、徳島に農業移住する場合は、本業、副業、農業法人に勤めるなど多様な方法と学ぶ場があるので、自分に合った就農スタイルを見つけてほしいとのメッセージがありました。
勝浦町・先輩移住者の話:9年前に移住した大友さん
次に先輩移住者である、大友和紀さんのお話です。大友さんはアウトドア好きが高じて東京から9年前に移住。以前は美容専門誌のアートディレクターをしていたそうです。現在はお試し移住ができるゲストハウス「坂本家」の運営のほか、まちづくり研修や大学の非常勤講師、時計修理職人など多様な顔を持っています。
大友さんが移住に関するアドバイスとして挙げたのは「住み続けることができる田舎かどうか」。健康な時だけでなく何かあった時に住み続けて幸せかどうかを見極めることが大切とのことでした。また、田舎暮らしは収入が減るので仕事を掛け持ちするなどリスクヘッジも重要とも話してくれました。
最後に大友さんから「移住に関していろいろ悩むと思いますが、悩んでも答えは出ない。移住する・しないの判断基準としては今と移住先、どちらの生活がよりワクワクするか、を考えてみては」と力強いメッセージをもらいました。
勝浦町・先輩移住者の話:みかん農家の石川さんご夫妻
次にみかん農家である石川さんご夫妻が登壇。お二人とも関東出身で、2016年4月に勝浦町に移住してきました。現在、みかん栽培以外に農家民宿「あおとくる」の経営や古本屋など多彩な活動を行っています。
もともとは映画関連の仕事をしていた石川さんですが、夫婦でともに働きたいと移住先を探し始めました。決め手は2015年に開催された移住フェアで、勝浦町のみかん農家の後継者を探しているとの情報を得たこと。農地のみならず通常なら初期費用のかかる機材も古民家もついているというラッキーな条件と、町の移住担当者の熱心なフォローに大きく心を動かされたそうです。
農業経験ゼロからスタートしたお二人も、新規就農して3年が経過した今では生活も軌道に乗ってきたそう。お二人からは移住の前には仕事や教育のことなどの優先順位を決めることや、ガソリン代や物価などについて自分なりにデータを集めてお金の計算をしっかりするようにとアドバイスがありました。ズバリ聞きたいリアルな年商や収支についても公表してくださり、ネットではわからない情報を得られる有意義な時間となりました。
この後、勝浦町の名物「ビッグひな祭り」を見学したり、産直市でみかんを購入したりと観光気分も味わいました。一行を乗せたバスは、勝浦町からさらに山深い道を進み、上勝町へ向かいます。
「葉っぱビジネス」の町、上勝町の魅力とは?
上勝町は、高齢者が生き生きと経済活動を行う「葉っぱビジネス」が全国的に有名です。また、最近ではごみ自体を出さない社会の仕組み「ゼロ・ウェイスト政策」を通して、持続的な社会の実現に取り組んでいる先進的な町でもあり、全国的にも数少ないSDGs(※)未来都市に選定されています。人口約1,500人と徳島県内で最も人口が少なく、高齢化率も50%超えといういわゆる限界集落ではあるものの、注目されるこの町の魅力について「株式会社いろどり」の横石知二社長の話から探ってきました。
横石社長によると、上勝は今でこそ「社会の課題を解決したい」と全国各地から若者や移住者が挑戦しにやってくる場所になりましたが、いろどり事業を立ち上げる32年前はみかん栽培が主な産業であり、町の人口は年々減少していました。横石社長は、どのようにすればみかん産業から脱却できるか、上勝町でできることは何かを考え続けていたそうです。ある日のこと、日本料理の彩に使われるもみじを女の子が大切に持ち帰る姿をヒントに、“葉っぱ”がビジネスになると直感。最初は前例のない事業に半信半疑だった町民を地道に交渉していくうちに協力者は増え、いろどり農家は現在157軒になりました。
60歳以上のおばあちゃんたちがパソコンやタブレット端末を駆使して、毎朝市場から自動的に入ってくる注文を早い者勝ちで受注し、売り上げを把握できるシステムでやる気はアップ。各農家によりますが、なかには年間1,000万円ほど売り上げている方もいるそうです。
そして、これらシステムやデータを活用して自発的にモチベーションを上げていける高齢者が多いことが、どこにもない上勝町の魅力だと話してくれました。
また、地域づくりに関しても「例えどんなにいいビジネスでも地域の人がなおざりになってはいけない、地域の人と町が一緒になって事業を伸ばすということが重要。住民自身が自分の町を誇りに思えるものを作ること、個を尊重し、地域の中での自分の役割を見つけてもらうことが大切」と語ってくれました。高齢者福祉の面においても保護施策に偏るのではなく、産業を通じた福祉という視点が必要との話に、SDGsに選ばれた理由が少しわかった気がしたのでした。
※「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称
いろどりの生産農家を訪問。五感で魅力を探る
2日目は、2班に分かれていろどり農家に伺い、実際にどのような作業を行っているのかを見学しました。そのうちのひとりである西蔭幸代さん(82歳)は、今から26年前にいろどりの仕事を開始。当時勤務していた企業の月給を軽くしのいでしまうほどの稼ぎになるいろどり事業ではありましたが、会社は辞めず無理のないかたちで続けてきたそうです。
庭先から裏山にかけて、先祖代々受け継がれてきた敷地には、四季折々の草花や樹木がのびのびと枝葉を伸ばしています。市場からは毎朝8時、10時など決まった時刻に注文が入ります。西蔭さんたち生産者は、パソコンやタブレットのシステム画面をチェックし、自分の敷地内のどの商材がいくらの単価で出荷できるかのタイミングを見極めつつ受注。最終的に自分の商材が日本のどこの市場でいくらで取引されたかが翌日にわかることも、生産者のやる気につながっている理由のひとつです。
西蔭さんは草抜きなどの整備の大変さやまとまった休みもあまりないという点もあるが、辞めたいと思ったことは一度もないとにっこり。ある参加者は「お仕事がすごく丁寧。マルシェでハンドメイドアクセサリーを売っている感覚でこれは楽しいだろうな」と感心した様子でした。
丘の上の産直市へ。徳島東部の農業サポート体制を知る
お昼にさしかかり、一行は次の目的地であるJA東とくしまの産直市「みはらしの丘 あいさい広場」へ向かいました。こちらは、産直市とレストランや農業体験施設などを併設した産直複合施設として、2018年4月にリニューアルオープン。連日、たくさんの人々でにぎわっています。
まずは、徳島の農業環境、勝浦町や上勝町などで就農した場合の販売先や支援体制などについて、JA東とくしま農業協同組合組合長・荒井義之さんから話を聞きました。
この日はちょうど「オーガニック・エコフェスタ」という減農薬・有機栽培に取り組む生産者と消費者のマッチングイベントがありましたが、こういったオーガニックを全面に推したイベントをJAが率先して行うのは全国的にも珍しいこと。また、徳島には有機農業サポートセンターがあり、オーガニックを学ぶための施設も充実しています。安全で健康によく環境にも配慮した食材が求められている今、そのニーズに合った農業ができる環境も整っているようです。
最後に東部エリアには3つの産直市があり、消費者のニーズを肌感覚で学び腕を磨いてほしいとの話があり、参加者は熱心に聞き入っていました。この後、バイキングレストラン「あいさいキッチン」にてランチを楽しみ、思い思いに野菜や魚を見て回りました。
最先端技術で農業のミライを拓く「樫山農園」を訪問
ツアーの最後は、小松島市にある「樫山農園」への訪問です。こちらは従来のカンや度胸に頼る農業ではなく、可能な限りデータを活用して効率的かつ最先端な農業を行っていく“スマートアグリ”を率先して実践する農業法人。近隣の耕作放棄地を借り受け、積極的に事業展開も行っています
17年前に父の農場を法人化し就農した代表の樫山直樹さんは、アメリカでの農業研修の際に見た大規模で効率的な農業の技術と、従来の日本の農業の良さの双方を活かした新しい農業の形を模索しています。樫山さんからは、一般的な農法と樫山農園が行っている農法の違いについてもじっくり説明を受けました。
例えば栽培方法は、一般的には経験とカンに頼りがちで技術が体系化されていないため伝承が難しいとされているのに対し、こちらの農園では土壌分析や太陽熱養生処理という技術を使い、科学的な分析をもとに土壌管理を行うそうです。
こうして作られた作物のひとつであるフルーツトマトは、養液栽培でコンピュータ制御による養液栽培を行い、完全オートメーション化。大手ビール会社と業務提携し、土の代わりに麦の穀皮を炭化したものを培土にすることで高糖度化して出荷しており、首都圏でも高評価を得ているということでした。
樫山さんからは「ゼロから就農するのはとても大変。農業に携わるなら、まずは農業法人に就職という選択肢もある」とアドバイスがありました。
一行はこのあと、実際のハウスを訪れ、小松菜を収穫しながらざっくばらんな雰囲気で意見交換を行っていました。
ツアーを終え、参加者の皆さんは徳島の農業の先進性に率直に驚いていた様子でした。自分らしい“農”との関わりについて、暮らし方について、五感で感じた2日間となったようです。大阪からも首都圏からも比較的アクセスのよい、ほど良い田舎・徳島。ぜひ移住や交流先の検討リストに入れてみてくださいね。