上:横田さん(宮城ふるさとプラザ店長) 下:吉田さん(宮城県東京事務所)
「池袋にある数少ないアンテナショップ」だからこその緊張感
「宮城ふるさとプラザ」のコンセプトと運営方針について教えてください。横田:宮城ふるさとプラザでは、「宮城県の魅力ある特産品の紹介」と「宮城県の観光情報の発信の拠点」を2本の柱にしています。
「宮城県の魅力ある特産品の紹介」については、宮城県内の企業の商品や特産品の中から選りすぐりのものを並べ、プラザに来られたお客様からの反応を企業にフィードバックし、「お客様に受け入れられる商品づくり」と、その販路拡大を並行して行えるよう意識しながら運営しています。
また、「宮城県の観光情報の発信の拠点」としては、2階に観光情報の紹介や相談の専用カウンターを設け、年間を通じて宮城の旬の情報を紹介しています。
一般的に、アンテナショップは銀座周辺に集中している印象ですが、なぜ宮城県は池袋駅前になったのでしょうか?
横田:「人も集まるし、新天地もいいんじゃない!」と色々な方々の声を受けて決まりました。現在でも宮城ふるさとプラザは、池袋にあるアンテナショップとしては数少ない存在になっています。
お客様は、他県のアンテナショップ巡りのついでではなく、宮城県のショップを訪れるためにわざわざ池袋に来ることになりますので、その分、情報も新鮮でないといけないし、特典の付いた価値あるイベントも日々やっていかなければという緊張感があります。
確かに、非常にユニークなイベントを多数企画されているようですね。
横田:面白いものとしては、伊達政宗公の甲冑(かっちゅう)のレプリカを着られるパフォーマンスがあり、好評でした。甲冑っていうのは大体ガラスケースに展示され、触れないことがほとんどですが、うちではお客様が着ることができて、写真も撮れるんです。これまで1,000人位の方に着ていただいて、その写真もアルバムになっていますね。
その他にも、2階を会場にして仙台の「ストリートジャズフェスティバル」の練習会を開いたり、仙台在住の料理研究家を招いて料理教室を開いたりと、色々なイベントを行っています。
また、漫画家の石ノ森章太郎さんが宮城出身なので、仮面ライダーの石ノ森バージョン、「シージェッター海斗」のショータイムなども、時々駅前通りに飛び出したりしながら開催しています。
夕方はショットバーも開き、宮城の食材を使った肴をつまみながら、宮城県が誇る高級純米酒を300円から提供しています。1階の「伊達の牛たん」で提供している1日限定30食くらいの分厚いタンステーキも、年齢を問わず好評です。
もちろん、入口にある週替わりの販売ブースでも、色々なことを行っています。来ればいつでも何か違ったり、イベントをやっているというのが、うちの最大の魅力ではないでしょうか。
そうした8年間にわたる地道な努力の甲斐もあって、宮城ふるさとプラザはリピーターのお客様がとても多く、1万2千人くらいいらっしゃいます(ポイント会員数)。
厳しい審査を通過した「選び抜かれた商品」だけを販売
店に並ぶ品物について「審査」があるというお話でしたが、どのような基準があるのでしょうか?横田:販売商品を決定する審査委員会があり、豊島区在住の消費者の方、元百貨店の店長、フードジャーナリスト、栄養大学の先生、県内業界の代表者、県農林水産部の課長の7名に年4回程度集まっていただいて審査会を開催しています。
ここでは添加物、価格、味覚審査など厳しい選定基準を設けていて、すべてを通過したものだけが店頭に並びます。もちろん落選する商品もたくさんありますが、結果は必ず企業側にフィードバックして、次の商品作りに活かしてもらいます。こういった活動は、アンテナショップとしての大切な機能だと思うんです。
その選りすぐりの商品の中でも、横田さんが「個人的におすすめ」な商品は何でしょうか?
横田:いま我々が一番楽しんでいる商品は、実は笹蒲鉾なんです。当店には12社くらいの蒲鉾業者の商品がありまして、これを箱売りではなく、一枚売りしているんですね。箱詰めギフトは、宮城に行った時に購入してもらえばいい。それにはまず、どこのメーカー、どこの地域の蒲鉾がどんなものかを知ってもらわないといけない。そのために、気軽に個々で選べるように置いています。
お客様が来ると、必ず「美味しいのはどれ?」となりますから、スタッフはお客様の好みを伺って、さらに「私はこれが好きなんですけれども」というお薦めの仕方をしています。お客様はそれを踏まえて、「自分の好みの1枚」を選べるわけです。
「変わらない宮城」と「変わっていく宮城」を伝えていきたい
横田さんは宮城にお住まいで、東京との往復生活をされているそうですが、東京の皆さんに伝えたいことは何かありますか?
横田:まだまだ沿岸部は十分に復興していない状態ですが、沿岸部の皆さんは、都会から観光に来たいという方について「ウエルカム」なんですよ。「被災地を見てください」という風潮になっています。
実際に震災の被害に遭った方の中には、今はむしろ「語り部をしたい」という方が増えています。一度経験した先駆者として今後語れることはあると思いますし、我々はその思いをつなげたいですね。
こういうデリケートな点に関しては、去年あたりまではお客様の中でも「行っていいのかな」と遠慮していた感じがありました。被災地側でも色々な課題があったのですが、今はそんなことはありません。どんどん宮城にいらしてください。
今後、ショップとしてはどのような展開をお考えですか?
横田:他県の事例もよく見聞きしながら、商品や観光の情報発信をしていきたいですね。同時に、企業と一緒になって優れた商品を考えたり、「宮城、元気出そうよ!」という活動もしていきたいです。
被災した生産者がよく言っているのは、「国や県から多くの支援を受けてきたけれど、自分達で良いモノを作り、売って、お金を稼がないと、本当に復興した気持ちになれない」ということですね。我々はその部分のサポートに特に注力していきたいと考えています。
あとは観光促進ですね。自治体や県のツアーの中には「被災地ツアー」というものがあり、旅行会社とコラボしてツアーの企画もしています。この店では直接ツアーの販売はできませんが、こういった被災地ツアーの情報も網羅的に揃えてご案内できるよう、充実させていきたいです。
また「広域観光」にも力を入れていますので、例えば仙台空港を起点に世界遺産の平泉(岩手)や、山寺(山形)、松島などを巡りたいというお客さんがいらっしゃる場合、他県も含めての所要時間、コース案内などをしています。
宮城ふるさとプラザを通じて「変わらない宮城」と「変わっていく宮城」をこれからも伝えていきたいですね。いつでも「宮城のありのままの姿」をお知らせできればと思っています。
「遠慮なく、観光をしに来てほしい」それが励みになり復興につながる
観光の内容も、色々と工夫されているようで多彩ですね。この点についてもう少し詳しく、吉田さんにお話を伺いたいと思います。
まず、復興応援ツアーですが、メニューもどんどん充実している状況なのでしょうか。
吉田:民間の旅行会社とも協力して、復興応援ツアーの商品は増えています。
宮城県としては、2年前の2011年10月に「宮城観光復興支援センター」を発足しました。団体旅行が主なターゲットですが、学校や企業などから復興応援ツアーに関するご相談をたくさん頂いて、観光ニーズと、地元の自治体やボランティアガイドなどが実施可能な観光支援とをマッチングする役割を担っています。
ツアーの内容としては、社員旅行や修学旅行などの一環で被災地を見ていただきます。例えば、震災で大津波に見舞われた「多賀城」のプログラムでは、震災後の「多賀城」の様子をDVD視聴して、震災に遭った方の話を聞いた後に被災地を巡ったり、「南三陸」のプログラムでは、震災写真パネル展を見て、語り部ガイドの説明を受けながら被災地を視察するといったことに取り組んでいます。
実際に震災の被害に遭われた方の中で、その時のことを伝えていきたいというニーズが高まっている、と横田さんのお話にもありましたが、復興応援ツアー人気の高まりは、被災地のニーズとマッチングしているということですね。
吉田:そうですね。現地サイドとしては、遠慮をしないでとりあえず来てほしい、来ていただくだけで復興につながるんだという思いがあります。
4月1日から6月30日まで開催された仙台・宮城デスティネーションキャンペーンなどもあって、今年4~6月の観光客数は震災前に近づいて、大きな手応えを感じています。
また、昔から宮城は、近県と協力して観光のPRをやってきました。例えば、仙台・宮城デスティネーションキャンペーンも、岩手の平泉や山形の山寺、あるいは福島の伊達市など他県の観光地を含めてお客様に提供してきました。
これからも、こうした広域観光を盛んにするよう力を入れていきたいと思います。
多彩な魅力が詰まった県南、県北、三陸、仙台・松島エリア。宮城観光は奥が深い
これから宮城に行きたいと思っている方のために、おすすめの観光スポットを教えてください。また、吉田さんの個人的なおすすめも、あえて一つ伺いたいと思います。
吉田:観光スポットは大まかに県南、県北、三陸、仙台・松島の4エリアに分けてご紹介していて、それぞれのエリアに見どころがたくさんあります。例えば、よく「食材王国みやぎ」というキャッチフレーズを使うんですが、県南なら温麺(うーめん)、県北なら油麩(あぶらふ)、三陸は海の幸、仙台なら笹蒲鉾など、各エリアで美味しい食べ物がたくさんあるのも楽しみのひとつかと思います。
宮城には、風光明媚なところや美味しいものが豊富で、温泉も各地にあるので、観光も十分楽しめるのではないでしょうか。個人的には、県北の鳴子がおすすめですね。秋は大渓谷の「鳴子峡」の紅葉が非常にきれいですし、温泉も良質多彩で、日本国内に11種類ある泉質のうち9種類がこの地で楽しめます。
宮城の魅力に触れて、新たに宮城で暮らし始める方も少なくないそうですが、
その魅力は観光の側面以外にどんなことが挙げられますか?
吉田:やはり「東北の中心地の宮城」というのがありますね。高速道路や新幹線、空港も整備され、仙台から東京へも最短で1時間30分あまり。こうしたアクセスの良さは大きな魅力だと思います。中国やハワイへも直行便で行けます。
また、東北というと雪が深い、寒いなどのイメージもあるんですが、仙台は年間を通じて非常に穏やかな気候で、東北の他の県と比べても雪はとても少ないので、東京からいらした方でも過ごしやすいと思います。海も山もあり自然が豊かだけれど、買い物なども便利で、街として非常に住みやすいと思います。
最後に、観光で宮城にいらっしゃる方に向けて、何かメッセージがあればお願いします。
吉田:特に、沿岸部については、復興市場、復興商店街、復興を語り継ぐ復興ツーリズムを展開し、皆一生懸命がんばっていますので、ぜひ一度お越しください。できれば復興市場などで食事や買い物をしてくだされば、地元サイドとしては非常に励みになります。
あと、2013年の今年、ちょうど「慶長遣欧使節」400周年という節目の年を迎えるということで、主に仙台市内でミュージカルやオペラが上演されるほか、石巻では「宮城県慶長使節船ミュージアム(愛称:サン・ファン館)」で「サン・ファン フェスティバル」という大きなお祭りも開かれます。復興の一つの目玉として、宮城県内では今このイベントに向けて一生懸命PRをしているところです。