5カ月ぶりの再会
緑豊かなアルプルの山々と大きな空。 新宿からバスに揺られること3時間半。飯島町に到着しました。澄んだ空気が町を包み込んでいます。
▲5ヶ月前、木村さんに初めてお会いした当時の写真
「遠いところからありがとうございます!」とバス停で待ってくれていた木村さん。以前取材をさせて頂いてから、約5カ月ぶりの再会です。都会の生活から地方に移住して1年。今回は、そんな木村さんの休日に密着します!
「今日は町の方にお花見に誘われているので、一緒に行きましょう!」と早速、車を走らせます。 全く運転をしなかった都会での生活から一転、飯島町では、運転することが必須になったという木村さん。「ペーパードライバーだったから運転下手でね、(笑)」と話す姿もどこか楽しそうです。
▲「与田切公園」の桜並木
まず最初に訪れたのは、豊かな緑に囲まれた「与田切公園」。空、川、山に囲まれたこの公園の景色は圧巻です。車を降りた先には、大きな青空に映える桜のトンネルが出迎えてくれます。訪れた日は、丁度、桜が見頃の時期でした。
▲「越百の水」
「与田切公園」には、キャンプ施設、テニスコート、プール、屋外ステージ、親水公園があるほか、中央アルプス越百山(こすもやま)・標高2,614mを水源とする地下水を汲み上げていることも有名です。料理やお茶に最適な軟水で、信州の名水秘水15選の「越百の水」は、町内外の方が汲みにくるほど、生活の必需品となっているのだそう。
木村さんと一緒に、園内に漂う良い匂いにつられて進んでいくと、楽しそうな笑い声が聞こえてきました。「初めまして。東京から!?よく来たね。」と温かく迎えてくれる皆さん。鉄板で焼いたお肉に、野菜、美味しい食事を頂きながら、皆さんとの会話が弾みます。
▲飯島町の方と楽しくお花見
「飯島町の好きなところを教えてください」と皆さんに尋ねてみると、「何もないところが魅力だよ」「夏には大きなお祭りもあるから、それに向けて町の皆が一体になるのところも好きだな」と住んでいるからこそ感じる魅力が沢山!「地域の方の集まりに声を掛けてくれるのが本当に嬉しいですね。その度に、知り合いから徐々にお友達になっていくんです。」と話す木村さん。移住者の方と、地元の方が楽しく交流する姿がそこにはありました。
飯島町だからこそ実現できた夢
次に車を止めたのは「飯島」駅前。
▲「飯島」駅前
木村さんと歩いて行った先には「池上酒店」というお店がありました。「このお店に、よくお土産として買う商品があるんです!」と話す木村さん。それは一体何なのでしょうか…。
種類豊富なお酒が並ぶ店内を見渡していると、酒屋ではなかなか見かけない、りんごをモチーフにしたカラフルなブースがありました。「アップルソース」という名の商品。ご主人の奥様であるジェニーさんが2年前に開発した商品なんだそうです!
▲店内に並ぶ「アップルソース」
それだけでも凄い!と思う中、なんとこの商品、米大使館主催の第4回「日本起業家賞2014」で、傑出した女性起業家に贈られる「パイオニア賞」を受賞しています。
▲第4回「日本起業家賞2014」受賞式
「信州のリンゴを食べたとき、本当に感動したの」と話すジェニーさん。(写真:右)35年前に、カリフォル二アから、結婚を機に飯島町に移住してきました。「日本ではあまり知られていない『アップルソース』を信州のリンゴで作りたい。」と商品を発案したそうです。「日本起業家賞2014」に応募するきっかけとなったのは、「多くの方に、素晴しい信州のりんごを知ってほしい」という想い。ご主人の応援も背中を押してくれたと言います。
ジェニーさんはその後、株式会社「信州KornuKopia(コルヌコピア)」を設立。いくつになっても挑戦する気持ちを持ち続けること”の大切さに気づかされました。
▲「キッチンガーデンたぎり」
次に訪れたのは、「キッチンガーデンたぎり」。木村さんが大好きだという、このお店のパンとジャムを買いに訪れました。パンや農作物の販売の他にも、店内には手作りの雑貨も数多く揃っています。
▲木村さんと酒井さん
笑顔で迎えてくれた「キッチンガーデンたぎり」の酒井さん。実は、2年前から飯島町で開催されている「米俵マラソン」の発案者です!開催して2年しか経っていないにも関わらず、全国各地から参加者が集まるイベントとなりました。「実は、米俵を制作する作業は、子育てで忙しく働きに出れないお母さん達に内職としてお願いしているんだよ。」と話す酒井さん。「米俵マラソン」によって新たな雇用も生まれています。
楽しい事、面白いことが大好きな酒井さんの夢は何でしょうか。伺ってみると、「いつか、お台場にあるガンダムの横に、15mの米俵タワーをつくりたいんだよ。」との回答が!圧倒される私と木村さん(笑)。夢は大きく!実現すること楽しみにしています!
▲2015年の米俵マラソンは、11月29日開催。
そうこうしている内に、時間は午後5時。沢山の方にお会いしているとあっという間に夕方になっていました。
「今日は、飯島町に新しく出来たお店で夕飯を食べよう!」と訪れたのは、「飯島」駅前にあるスペイン風居酒屋「バル ラルゴ」。飯島町の地域おこし協力隊は、兼業が認められており、木村さんは町の勉強と、人脈づくりのために、時々このお店でアルバイトをしています。
▲お食事を共にした皆さんとの記念撮影
「こんばんは!」と店内に入ると、すでに木村さんの友人の方々が食事を楽しんでいました。
「この前、彩香ちゃんが開催していたイベント、反響どうだったの?」と町の方との話題は、木村さんが主催しているイベントで持ち切りです。前回のイベントでの反省点や、今後の改善点まで、さまざまな意見が飛び交います。「このような意見はとても貴重で、次のイベントを成功させる材料にもしているんです。」と話す木村さん。その後も、町の方が来店する度に、「おー!彩香ちゃん!」「お久しぶりです!」と挨拶から何気ない会話が続いていきます。木村さんは、この1年間で町の方としっかり関係を築いていました。
伝統を守り、そして新たな挑戦へ
2日目の最初に訪れたのは、「千人塚公園」。
中央アルプスを間近に望む「千人塚公園」は、散策コースとしても親しまれています。「飯島町に移住するまでは海が身近にある生活だったので、海のない生活は出来るかなと思っていたけど、今では、千人塚公園が私にとって海のような存在です。」と木村さん。こんな豊かな自然が身近に揃うのも飯島町の魅力の一つですね。
▲「千人塚公園」
散策の後立ち寄ったのは、自然酵母パン「チョコタン」。多数のメディアに取り上げられ、全国各地からも訪れるファンがいるほど、人気のパン屋です。
▲自然酵母パン「チョコタン」
扉を開けると、開店してすぐにも関わらず、多くの方が来店していました。
関西から移住してきた上村ご夫妻は、この飯島町でパン屋をオープンして約5年目だそうです。
▲上村ご夫妻と木村さん
「新聞で活躍見たよ。集客はどう?」と木村さんが企画している出会い・婚活イベントについて話す奥さん。そんな何気ない一言から始まる日常会話が飯島町にはあります。「町の方が気にかけて、声をかけてくださると、頑張ろう!って思います。」と話す木村さん。
「また、是非いらしてくださいね」と見送られ、お店を後にしました。
次の場所に向けて車を走らせていると、なんと祭の法被に身を包んだ沢山の人が!
偶然にもこの日は、家内安全と豊作を祈願するために町を練り歩く「新田稲荷神社獅子舞」の日でした。
▲「新田稲荷神社獅子舞」
男の子はキツネの衣装、女の子はおかめのお面に着物姿で踊ります。
▲楽しそうに踊る子ども達
「子どもたちより、大人の方が楽しんでいるの(笑)」と話すのは、子どもたちに振り付けを教えている上原さん。
「2年に一度、七久保地区の子どもたちが、このような衣装に身を包み、町内を回ります。家内安全と豊作祈願はもちろん、新たに七久保地区で暮らし始めた方々のコミュニティの場にもなっていてね。地域の方々と大切に守っているお祭りのひとつです。お祭り自体は、なんだかんだ子どもよりも大人の方が楽しんでいるんだけどね。(笑)」
飯島町では、地域で子どもたちを守り育てる風潮が続いています。そんな地域の方々に見守られ、のびのび育つ子どもたちの姿がありました。
▲しっぽも付いていて可愛い
「この後打ち上げあるから、よかったらおいで!」と誘ってくれたのは折山さん。(写真下:左)お言葉に甘えてお邪魔しました。
「いや~、本当に子どもたちの力には負けるね。」と話すのは、那須野リンゴ農園を営んでいる那須野さん。(写真:真ん中)ココロココ編集部にもりんごを贈ってくださった方です!
▲美味しいお料理に会話が弾む
この春、「七久保小学校」の6年生が桜の綺麗な時期に地域の皆で花見をしようと企画を持ちかけてくれたそうです。けれど忙しい年度末の時期。「どうしてこんな時期に…人がそんなに集まるのか?」と那須野さんも半信半疑だったそうです。
「それが当日子どもたちは、両親やおじいちゃん、おばあちゃんを連れてきてさ、生徒数24人に対して、家族含めて81人!最終的には、町の人も入れて160人になったんだよ!あれは本当に感動したね」と涙を浮かばせながら話していました。
今回の企画を通して、那須野さんは飯島町に新たな可能性を感じたと言います。子どもたちの可能性を信じる大人たちと、そんな素敵な大人が沢山いる飯島町で育つ子どもたち。大人と子どもの素晴しい関係性がこの町にはあります。
気付けば14時!「昼食を一緒にと思って、手打ち蕎麦の会の方を誘ったよ」という木村さんの言葉にテンションが上がるココロココ編集部。5ヶ月前、木村さんを取材するために訪れたイベント会場で出会った「いいじま手打ち蕎麦の会」の皆さんとの嬉しい再会です。
▲木村さんと「いいじま手打ち蕎麦の会」の方々
信州蕎麦の優れた原料として用いられる玄蕎麦を生産している飯島町。そんな飯島町の蕎麦をもっと知ってもらおうと結成されたのが「いいじま手打ち蕎麦の会」。2014年の冬にオープンしたというお店「そば道場ななくぼ」では、メンバーの方々が日替わりで蕎麦を打ったり、蕎麦を打つ教室を開いたりと精力的に活動されています。
▲この日は那須野さんが打ってくれた特製蕎麦
飯島町の蕎麦の魅力を沢山の人に伝えたいと立ち上がった「いいじま手打ち蕎麦の会」の皆さん。なんとさらなる野望を抱いていました!それは、道の駅に蕎麦屋をオープンすること。「すぐに結果を求めない。今の取り組みは、10年後、20年後、必ず返ってくるから。」そう話すのは、原さん。(写真:右から2番目)大きな目標に向かって取り組む皆さんの姿に、「まだまだやれる。」とココロココ編集部も自信を頂きました!
▲「いいじま手打ち蕎麦の会」の皆さんと上原さん
出会えた町の方こそが私の宝物
▲「蕎麦ひねもす」
食後のデザートにと、木村さんが連れて行ってくれたのは、「蕎麦ひねもす」。木村さんにとって移住当初からずっと見守ってくれている心強い存在で、癒しのスポットでもあるそうです。
こちらのお店を営んでいるのは、静岡県から移住されてきた阿部さんご夫妻。
緑豊かな自然の中で暮らしたいという共通の想いを抱いていたお二人は、移住に向けてさまざまな地域に足を運んだそうです。そこで出会ったのが飯島町。出会ってすぐに、「この地でお店を開きたい!」と移住を決意。古民家を改装して、オープンしたお店は徐々に町の方にも伝わり、今では多くの方が訪れる飯島町にはなくてはならないお店となりました。
▲阿部さんご夫妻
「蕎麦も美味しいけど、ご主人こだわりのコーヒーと蕎麦スイーツも美味しいよ。」と木村さん。カフェタイムにもよく利用しているそうです。
▲蕎麦スイーツ
今回の飯島町訪問で、沢山の方にお会いし聞く事のできた夢や想い。そんな貴重な2日間を用意してくれた木村さん。ココロココでも木村さんの活動を紹介しましたが、どうしても一人の女性として木村さんに聞きたかったことがあります。それは、「移住への決意」と「移住してからの今」について。
「飯島町に移住するとき、今までのスキルも何もかもを捨てて行こうと思っていました。慌ただしい東京での生活を卒業したかったんだと思います。」
そう話す木村さんは、東京で営業として働いていました。当時勤めていた会社に退職の意を伝えるも、何度も引き止められたと言います。
「毎日、満員電車に揺られ、1000円ぐらいするランチを急いで食べて会社に戻り、夜遅くに帰宅する…。東京で続けていたそんな生活に疑問を感じていたんです。飯島町では、近所の方から頂いた野菜を使ってお弁当を作ったり、自炊をしたり、早く帰宅して地域の方との時間を大事にしたり。どちらが自分にとって豊かなのか、自分はどんな人生を歩みたいのか。」
そんなことを考えたとき、自然と選択肢は決まったそうです。
▲木村さんと飯島町職員の皆さん
「今は、地域おこし協力隊として出会いの場創出を担当しています。結婚や婚活の相談に来てくださる方々の自己PR文を添削したり、お見合いや婚活イベントに向けて洋服のコーディネートのお手伝いをしたりと、幅広く行っています」と話す木村さんは、ファッション関連の専門学校を卒業した後、アパレル関係の仕事や学校勤務での履歴書添削など、これまでさまざまな経験を積んできました。不思議な事に、捨てようと思っていたスキルが今、全て生きていると言います。
「都会に居ると、人は自分にとっての利益を考えがちです。けれど飯島町の方は”人のために”優しいんです。東京に居ると、私は28歳の普通の女子ですが、そんな私が縁あり、飯島町に来て、“飯島町の宝”だと言ってもらえる。本当に嬉しかったです。思い切って行動して、出会えた町の方こそが私の宝物です。」
▲木村さんお気に入りスポット
最後に木村さんに聞きました。
「もう一度東京での生活に戻ることはできますか?」
「東京での生活を身体が覚えているから、多分戻れるけれど、すぐに”飯島町ホームシック”で耐えられなくなりそう(笑)。家族や友達と離れて暮らしているのは寂しいけれど、いつも笑顔であたたかく迎え入れてくれる町の方に会うと、『ここに来てよかった』と思えます。私がそうであるように、”思い切って都会の生活を卒業し、地方に移住する”そんな女性が増えたらいいなと思います。そのために、私も日々頑張ります。」
自分の気持ちに素直に向き合い、常に”自分は町のために何が出来るのか”を追求する木村さん。そんな彼女が身を委ねる飯島町もまた魅力ある素敵な町でした。