月10万支給、家賃と水道光熱費が無料でコミュニティつき!
まずは、「金谷お試し移住プログラム」の全体像について滝田さんにお聞きしてみましょう。
滝田一馬さん(以下:滝田)
「金谷お試し移住プログラムは、地方への移住を考えた時に多くの方が壁と感じる『仕事』『住まい』そして『コミュニティ』をセットにしたプログラムです。参加者は週3日間を土日祝日中心に提携企業で働き、残りの4日は自由に自分のことをします。これによって月々10万円が支給され、家賃と水道光熱費が無料。さらにコワーキングスペース『まるも』の利用も無料でコミュニティと関わることができます。」
月10万円というのは週3日働いた分の給与に相当しますが、家賃水道光熱費が無料というのは魅力的。家賃の相場が2.5万円で水道光熱費が5千円程度ということなので、月々約3万円もお得にお試し移住ができます。
また後述しますが、『まるも』とは山口さんが運営するコワーキングコミュニティ。仕事と住まいだけでなく、コミュニティまでカバーしているので参加して孤立無援ということはありません。
都市住民から見た田舎の価値にコンセプトをシフト
金谷お試し移住プログラムが先進的なのはサポート体制だけではありません。プログラムのコンセプトは、『自分を見つめなおし、次の一歩を踏み出すための準備が出来る場所』。
滝田
「地方移住をサポートというと地域おこし協力隊のような制度がありますが、どちらかというと地域に貢献する要素が強いと思います。それに対して今回のプログラムは、都市住民がゆっくり人生を考える『時間』の提供に力点を置いているんですね。」
「自分もそうだったんですが、都市に住んでいると『自分の人生ほんとにこのままでいいのかな?』とか『この環境で暮らすことが夢だったのか?』など問いはあっても真剣に考える『時間』がなかなかとれないんですよね。金谷でゆっくり自分自身の『時間』をとって次の人生に生かすなど都市住民目線で田舎暮らしの価値を提供しようと考えました。」
このように語る滝田一馬さんは東京生まれの東京育ち。東京農業大学の在学中にサークル活動の一環で農業体験のため初めて金谷を訪れることに。その後大手IT企業に就職しますが、金谷で過ごした時間の大切さに気づき、会社を辞めて金谷に移住しました。そんな経験のある滝田さんだからこそ、シェアハウス『炊きた亭』を運営しつつ、「金谷お試し移住プログラム」の取り組みへ結び付いていったのです。
“フリーランスの聖地”との協力体制
金谷といえば、最近 “フリーランスの聖地”という呼び声が高いのですが、このムーヴメントの火付け役こそコワーキングスペース『まるも』を運営する株式会社Ponnuf代表の山口拓也さん。約1ヶ月の滞在期間で田舎に住みながらフリーランスのスキルを学ぶ「田舎フリーランス養成講座」(略して「いなフリ」)が、金谷に始まって千葉県いすみ市や、山梨県都留市、鹿児島県頴娃町など全国に展開しています。
山口拓也さん(以下:山口)
「いなフリの参加者は、毎回平均して15名~20名ぐらいでWeb系フリーランス志望者が大体半数ぐらいですね。スキルアップのためや転職前という方など実際にはいろんな方がいます。基本的には地方での独立を支援するプログラムで、2~3割の人が実際に独立していて、金谷にもこの3年間で約50人が移住しました。」
山口さん自身も金谷に移住しようと思って訪れたわけでなく、後輩が住んでいた縁で少しの期間遊びに来たところ問題なく金谷でも仕事ができたことから事業をスタート。そんな経験から地方で独立を目指す人を応援しようと「田舎フリーランス養成講座」を開講しました。
「しかし、もちろん未経験者もいますし、講座終了後にすぐにはWebの仕事だけでは食べていけない人もいます。そこで『金谷お試し移住プログラム』と連携しようということになったんです。講座後も金谷にいたいという方にはプログラムを利用して週3日ザ・フィッシュで働き、残りの4日で自分がやりたかった仕事のスキルを磨いたり、独立を目指したりする方がプログラムに参加しています。」
丸3年で人口約1500人の小さな漁村に50人が移住とは驚くべきことですが、山口さんによると「仕事」「住まい」「コミュニティ」がワンストップで得られることがその最大の理由なのではないかということ。「いなフリ」参加者にとっては講座終了後も「金谷お試し移住プログラム」でサポートを受けることもできるため、双方にメリットがあります。
地元企業とキーマンが強力サポート
さらに提携企業である観光施設「ザ・フィッシュ」との関わりはどうなっているのでしょうか?
滝田
「そもそもこのプログラムは、ザ・フィッシュの羽山専務が考案した3+4プロジェクトを発展させたものなんです。人口は急速に減少しているとはいえ、ザ・フィッシュは休日観光客で賑わっています。そこで起きている現象が土日祝日の深刻な人手不足。特に金谷は人口も少なく、他地域との交流もあまりなかったので、新聞で求人を出しても時には問い合わせゼロということもあったそうです。」
「そこで考案されたのが、土日祝日中心に3日働き、残りの4日を自由に過ごす人の募集『3+4プロジェクト』でした。このプロジェクトが発端となって、住む場所やコミュニティのサポートを追加し、コンセプトをブラッシュアップしたのが『金谷お試し移住プログラム』なんです。ザ・フィッシュは家賃と水道光熱費を負担するだけでなく、羽山専務をはじめとして本当に色々なところでプログラムを応援してくださっています。」
ザ・フィッシュの羽山専務、半島フィールドワークにて富津市金谷をコーディネートしてくださった森山さん、そして富津市役所企画課長の坂本さんはなんと同級生。こうした地元キーマンの存在も先進的なプログラムが生まれた必要不可欠な要素となっているでしょう。
順調に参加者は増加。しかし課題も…
2018年2月にスタートした「金谷お試し移住プログラム」ですが、実際にはどのような成果や課題が見えてきているのでしょうか。
滝田
「NHKに取り上げられた月はドドっと問い合わせが増えましたが、毎月平均して3件ほどのお問い合わせがあり、10月現在プログラムの利用者は合わせて10人となりました。どの方も真剣にプログラムに取り組んでくださり、一定の成果は生まれているのかと思います。しかし企業側の負担が大きすぎはしないか、また、目的ではありませんが定住者が現れていないことも課題といえば課題です。」
「あと、どうしても発信を『まるも』のチャンネルに頼ってしまっているところ。『まるも』の媒体に発信力があるのはわかっているのですが、『金谷お試し移住プログラム』自体はフリーランス限定のプログラムではないので、もう少し広い層に知ってもらうように努力しないといけないですね。」
と、そのタイミングで登場したのは、現在「金谷お試し移住プログラム」を利用しながらシェアハウス『炊きた亭』に住む25歳の桜庭航さん。桜庭さんは地元福岡で地域おこし協力隊に応募したものの落選。その時この先の自分を見直す「時間」が必要だと考えていたところネットでプログラムを知りました。農産物の獣害被害にも胸を痛めており、何かできることはないかと調べ上げたという話には驚きの声と笑顔が湧きました。
地域の仕事とどのように関わっていくか
会場からは「金谷お試し移住プログラム」を利用する人たちに社会起業家的な目標を持つ人が多いのではという意見も。単に土日祝日の労働力不足を補うだけでなく、例えば獣害などのように地域側の問題も隠さず公開することで、これに挑戦する人も出てくるのではないかという案も挙がりました。
滝田
「確かにその点はこれまで考えたことがありませんでした。ピンチはチャンスに変わる可能性も秘めていると思うので、何が課題となって解決を求められているのかを地元の方々からヒアリングしてプログラム利用者に共有していきたいと思います。そうすることで、地域の仕事と関わりが深まり自然な定住者に繋がっていくことも考えられますね。」
山口
「やはり『まるも』経由の参加者ですと、もともと場所を選ばない働き方をするフリーランス志望の人が多いので、自分の働き方が見つかってスキルを磨ければ地元に帰る人や、次の拠点に移る人も少なくありませんね。しかし、WEBやデザインという仕事も、地域の仕事と全く無関係かというとそうでもありません。例えば、地元産品で新しい加工品作りを行って、そのパッケージをデザインしてネットで販売するといった仕事も考えられるでしょう。」
プログラムの横展開も視野に入れつつ、空き家が足りない問題浮上中!
また現在は観光施設ザ・フィッシュが唯一の提携企業先となっていますが、人手が足りていないのは観光産業に限りません。今後、旅館業や介護業にも横展開していく展望についても話がありました。
滝田
「受け入れ人数については慎重に検討していますが、もちろんザ・フィッシュとしても無尽蔵に人が必要ということではないので、旅館や介護施設などとも話をしています。ただ、これはそれぐらいまで利用者が伸びてからの話ですね。また現実的な話として、金谷には空き家が足りていないんです。」
山口
「そうなんです。ザ・フィッシュもうちも3年ほど地域住民と話し合って空き家を探してきたのですが、現在空き家に待ちが発生している状況です。実際に移住者が突然増えたこともありますが、金谷という地域の特性上、空き家が少ないことも考えられます。これについては、私も現在アパートを新築中ですが、一企業としてできることにも限りがあるので、行政がアパートを運営するなど支援があるとありがたいですね。」
全国各地で空き家が増えすぎて問題になっている中で、金谷は移住者が住む空き家が足りていないことが問題という異例の事態。山口さんからは今後3年間で500人の移住者を増やしたいとの目標も掲げられ、金谷お試し移住プログラムも利用者の数によっては、提携企業に加えて住まいの確保も地域を広げるなどアイディアが必要になってくるかもしれません。
いずれにせよ人口減少に悩む地域にとっては嬉しい悲鳴であり、全国の参考になる事例となって進行している「金谷お試し移住プログラム」。ひとつ今後の課題として話にあがったのは、地域住民との交流の場。特にこれまでトラブルもなくこれほどの移住者、移住希望者が集まっていることは素晴らしいことですが、コミュニティがさらに地域住民との輪に広がっていくことで、仕事そして定住を検討するレベルも変わってくるのではないでしょうか。これからも全国の先駆けとなるプログラムとして、どんどん新しいことに挑戦していってほしいと願います。