半島フィールドワークレポート1:房総半島・富津市金谷編

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国土交通省は地域振興の一環で「半島振興」に取り組んでおり、この度半島の調査事業で「半島フィールドワーク」がスタート。ココロココ編集部も参加させていただきました。

第一弾は千葉県房総半島の富津市金谷(かなや)。金谷は富津市の南端にあって人口1500人ほどの町。鋸山から採れる房州石と漁業で栄え、文人墨客も多く訪れた歴史ある町です。

現在少子高齢化で担い手不足が深刻な課題となっていますが、その反面移住した若者の事業でここ数年移住者が50人超。そして地元住民が長年取り組んできた「石と芸術のまち金谷」という構想が実を結び、「NIKKEI STYLE」が発表した「外国人が次に目指すディープジャパン」で全国第二位に鋸山がランクインしました。
それでは富津市金谷の半島フィールドワークにご招待しましょう。

20年先を見越した人口ビジョン。注目集まる最南端「金谷」

11時に参加者が集合した場所は、JR浜金谷駅目の前にある「コミュニティセンター金谷」。フィールドワークの説明や自己紹介に続いて富津市企画課長坂本秀則さんより富津市の解説がありました。

コミュニティセンター金谷に集合した参加者

富津市は東京湾に面し、南北40キロの海山に囲まれた自然豊かな地。坂本さんによると「最近ではスポーツが盛んで、例えば箱根駅伝出場大学の練習拠点になっている」とのこと。しかし少子高齢化に加えて都会だけでなく近隣市町村に人口が流出する結果、1985年の56,777人をピークに人口は減少を続け、2018年現在45,000人を切りました。

そこで市が策定したのが「富津市人口ビジョン2040」。人口減少に対策を講じ、2040年までに人口を34,000人にキープする構想です。そんな中で注目を受けているのが、観光の一大拠点でもあり、かつ移住者が急速に増加している金谷。

富津市企画課長 坂本秀則さん

富津市企画課長 坂本秀則さん

「近年富津中央インター経由で高速バスが拡大することで、観光においてもビジネスにおいても、また移住の地としても富津市への需要が増すと予想されます。ここ金谷の地からその突破口を開けるように行政も最大限の努力をしたい」という思いが語られました。

久里浜と房総半島をつなぐ「東京湾フェリー」

それではいざフィールドワークへ。一発目は「東京湾フェリー金谷ターミナル」。対岸の久里浜と金谷を40分の航海で結ぶ東京湾フェリーの発着場です。

東京湾フェリー金谷ターミナル

東京湾フェリー金谷ターミナル

(株)東京湾フェリー寺本敏光さんのお話では、「1960年に設立した東京湾フェリーは、かつては南房総富浦まで渋滞を引き起こすほど利用者で溢れていた」そう。1995年に年間215万人を運んでから様々な交通事情の発達もあり2015年には68万人に減少。とはいえ単なる交通手段を超えて船に乗船する人気は根強く、今後もこの価値を訴求して房総半島への旅路を楽しんでもらえるように様々な企画も組んでいくとのこと。

(株)東京湾フェリー寺本敏光さん

(株)東京湾フェリー寺本敏光さん

お昼はターミナルに併設する「波留菜亭」で頂きました。料理長が朝釣ってきたという「鯵フライ定食」の美味しさに舌鼓。サクッと揚げられた衣に中は脂ののった鯵のジューシーな食感。これはおすすめです。

波留菜亭 鯵フライ定食

波留菜亭定番メニュー「鯵フライ定食」

観光バス100台を迎える「ザ・フィッシュ」の課題から生まれたプロジェクト

東京湾フェリーを後にした一同はお隣にある地域最大の観光施設「The Fish(ザ・フィッシュ)」へ。平日なのに観光バスが駐車場を埋め尽くし、団体ツアーの観光客で大賑わいでした。

ザ・フィッシュ

ザ・フィッシュ外観

前日のバスは150台で平均して土日に600人もの人が集う観光施設ですが、ザ・フィッシュ専務の羽山篤さんによると「以前は1日1600人という時期もありましたが、『働き方改革』の中にあって余りに受け入れすぎて従業員が夜遅くまで働くことは避けている」という状況。ザ・フィッシュがいかに魅力的な場所であるかが伺えます。

しかし深刻なのは観光客数に対して人手が不足しているということ。そこで羽山専務は、忙しくなる土日祝日の3日間を中心に働き、4日は好きなことをするという「3+4プロジェクト」を立ち上げて、地域外から人を募集します。

ザ・フィッシュ レストラン

ザ・フィッシュ内の海を一望できるレストラン

金谷では後ほど訪問するコミュニティスペース「まるも」を中心として、フリーランスの若者の移住が急増しており、この外からの目を持った若い人々に金谷の魅力をコンテンツ化してほしいという狙いもあったようです。こうして最後にインタビューを聞く移住者お二人が取り組む「金谷お試し移住プログラム」に続いていきます。

“石と芸術のまち金谷”の象徴「金谷美術館」

次に訪れたのはザ・フィッシュから歩いて2分、「金谷美術館」です。迎えてくださるのはザ・フィッシュを運営する富洋観光株式会社の社長でもある鈴木裕士さん。鈴木さんはNPO法人オール富津情報交流センター(AFICC)の理事長も務められています。

金谷美術館

金谷美術館 「金谷美術館流 南総里見八猫伝(はちにゃんでん)」の企画展が催されていた

「2007年頃から『石と芸術のまち金谷』をテーマに、この地域の歴史や文化に根ざしたまちづくりをしようと地道に活動を始めたところ、篤志家の方々から多くの芸術品を寄贈いただくようになりました。そこで2012年にこの作品を展示しようと生まれたのが『金谷美術館』です。」

金谷美術館理事長 鈴木裕士さん

金谷美術館理事長 鈴木裕士さん

金谷美術館の誕生とともにまちづくりへの地域住民の思いが高まり、数々の空き施設の利用も進み、2017年には芸術家が一定期間滞在して作品制作を行う「アーティスト・イン・レジデンス」のイベント「南総金谷藝術特区」も開催。

「さくら目」の美しい房州石でできた蔵

ザ・フィッシュ 専務羽山篤さん

房州石の「さくら目」を解説するザ・フィッシュ専務羽山篤さん

続いて美術館を出て中庭を通ると古い小屋に到着。「鈴木家住宅石蔵」(国登録有形文化財)です。実はこの鈴木さんは、鋸山房州石を採石する事業の元締めを担っていた鈴木家16代目当主。「鈴木家住宅石蔵」も良質な房州石でできており、ピンク色の「さくら目」と呼ばれる石の説明などに参加者から感動のため息も。

鈴木家住宅石蔵

鈴木家住宅石蔵

鋸山はかつて関東平定の拠点!?文人墨客をいざなう霊山

蔵から歩いて5分の距離に見えてきたのは「金谷ステーション」。閉店した老舗旅館を改修して2017年に生まれた金谷全体の観光窓口です。

金谷ステーション

金谷ステーション

「鋸山は日本一大きな大仏が鎮座する『日本寺』があり、今から約1300年前に聖武天皇と行基によって関東平定の拠点として開山され、夏目漱石や正岡子規、小林一茶や東山魁夷など名だたる芸術家が作品を残してきました」と鈴木さんからガイドがあり、2018年NIKKEI STYLEで「ディープジャパン」第二位に選ばれたことに納得。外国人旅行客も如実に増えているとのこと。「石と芸術のまち金谷」は1300年以上もの歴史を受け継ぐテーマなのです。

金谷ステーション

金谷ステーションの中で鋸山など金谷の魅力を紹介する鈴木さん

金谷のまちづくりから地域に愛されるピザ屋が誕生

そしていよいよ向かった先は、この3年で若者が50人以上も移住しているという全国でも異例のゾーン。まずは移住者の福倉光幸さんが2011年にオープンしたという「Pizza GONZO(ゴンゾー)」へ。

Pizza GONZO

鋸山観光案内所がピザ屋になった「Pizza GONZO」 写真左が房州石でできたピザ窯

福倉さんは鈴木社長との出会いで金谷のまちづくりに参画。金谷の町に惚れ込み独学でピザを学んで、ピザ屋を始めました。ピザの窯はなんと鋸山の石でできているそうです。「世話を焼いてくれる地元のおじさん、おばさんの影響が大きかった」と語る福倉さん。Pizza GONZOはお隣の鋸南町にある道の駅保田小学校の中にも2号店をオープンし、年々地域に愛されています。

3年で50人超が移住するフリーランスコミュニティの黎明

そのGONZOの目の前にあるのが株式会社Ponnufの運営するコワーキングコミュニティ「まるも」。「まるも」にて2015年に始まった「田舎フリーランス養成講座」は現在千葉県いすみ市や、山梨県、鹿児島県などに展開し、その結果金谷では50人を超えるフリーランスが移住しました。

株式会社Ponnuf代表 山口拓也さん

「まるも」を紹介する株式会社Ponnuf代表 山口拓也さん

「約1ヶ月間田舎に住みながら、ライティングやWEB制作、デザインなどフリーランスのスキルを学ぶ講座です。この講座の特徴は、『仕事』や『住む場所』だけでなく『コミュニティ』として仲間ができることですね」と語るのはPonnuf代表の山口拓也さん。山口さんは、後輩が金谷に住んでいたことがきっかけで金谷を訪れ、特に問題なく金谷でも仕事ができることを実感して独立しました。

コワーキングスペース「まるも」

フィールドワークで伺った日も「田舎フリーランス養成講座」期間中だった

開発合宿向け施設「Voido」オープン&シェアアパートを建設中

Ponnufは「田舎フリーランス養成講座」だけでなく、企業の「開発合宿」の受け入れも事業化しており、今年オープンしたのがイノベーションキャンプ「Voido」。「まるも」で開発合宿を行う企業には金谷の旅館を紹介しており、年間で500万円ほどの売り上げを地域に還元。それでも宿泊先が足りず機会損失となっていたことから「Voido」の建設に至ったとか。

金谷 Voido

開発合宿向けの施設「Voido」

実はこの山口さん、「まるも」利用者のために現在シェアアパートを建設中。敏腕起業家29歳が挑む事業は地域活性化と歩調を合わせて進行中です。冷静な解説には「お見事」の一言。

金谷お試し移住プログラムの移住者二人にインタビュー

さて、一通り金谷での現地フィールドワークを終えた一同は再び「コミュニティセンター金谷」に戻ってきました。ここからはザ・フィッシュ、山口さん、そして滝田一馬さんが三者で連携して組み立てる「金谷お試し移住プログラム」についてのインタビューとフリートーク。

コミュニティセンター金谷

鋸山を背にした「コミュニティセンター金谷」

滝田一馬さんは金谷にてシェアオフィス 「炊きた亭」を運営する移住者。学生時代サークルで金谷を訪れ、一度IT企業に就職しますが金谷の魅力に惹かれて移住しました。東京農大の出身で移住前に有機農業の研修にも行っており、「週末ベジタブルサークル」を運営する人としても知られています。

炊きた亭 滝田一馬さん

シェアハウス「炊きた亭」を運営する滝田一馬さん

「『金谷お試し移住プログラム』は、ザ・フィッシュの羽山専務が考案した『3+4プロジェクト』をブラッシュアップしたものなんです。土日祝日を中心に3日間ザ・フィッシュで働き、残りの4日は自分の興味あることにゆったりと時間をとって過ごします。この間月10万円の支給と企業側が家賃や水道光熱費を負担するという仕組みです。」

ゆっくり自分を見つめ直す“時間”を提供する「金谷お試し移住プログラム」

滝田さんはプログラムを始めた意図として次のように語ります。

「自分もそうだったんですが、東京での生活は仕事に追われ自分と向き合う『時間』がほとんどありません。ここ金谷はそんな時間を送るのに抜群の環境がある。地域へ貢献するという文脈ではなく、都会の人にとって自分を見つめ直す『時間』を大切にして、いきなり移住ではない『試住』から田舎を知ってほしいんです。」

金谷お試し移住プログラム 報告会

約20名で「金谷お試し移住プログラム」の報告を聞き、意見交換

確かに田舎にはないものが都会にあり、都会にないものが田舎にある。しかし都会から突然田舎へ移住するというのは大きな冒険です。また田舎の魅力は移住だけが全てではありません。滝田さんはあくまで自分の人生と向き合う「試住」という選択肢を提示し、その参加者の中から自然と移住者する人が出てきたらと展望を語ります。

国土交通省半島振興室 川﨑由理奈さん

フィールドワーク主催の国土交通省半島振興室 川﨑由理奈さんよりご挨拶

「金谷お試し移住プログラム」には「まるも」の「田舎フリーランス養成講座」を終了した方も参加しており、滝田さんを中心としてザ・フィッシュやPonnufの三事業者が連携。企業の負担が大きいのでは?実際に移住する人が生まれるの?といった課題もあがっていますが、2018年2月に始まったばかりでこれからが正念場。本インタビューの詳しい記事はhttps://cocolococo.jp/26320 をご覧ください。

徒歩圏内に半島の魅力が詰まった金谷

驚いたことに今回まわった拠点全てがJR浜金谷駅から徒歩圏内。1500人ほどの小さな町というコンパクトさもさることながら、徒歩圏内でこれほど凝縮している層の厚みこそ金谷の魅力だと感じました。金谷港と鋸山という海と山が一体となった景観や文化、他地域との連続性はまさに「半島」の賜物。ぜひ東京湾フェリーに乗って、一度金谷を徒歩で散策してみてください。「金谷ステーション」に寄れば間違いなし。ゆったりと自分と向き合う“金谷時間”があなたを待っていることでしょう。

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東洋平

東洋平HIGASHI-Yohei

2011年に南房総館山に移住。編集やイベント企画、お米づくり、音楽制作など様々な仕事をこなす「複業型ライター」。学生中に何度も訪れているうちに人や自然に惚れ込み、未就職で南房総に就職。無印良品ローカルニッポンをはじめとして、総計100本以上南房総の記事を執筆しています。

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