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2019年12月13日 ココロココ編集部

「までいな村」の100年先を考える!活用されていない資源を使って、村の未来を一緒につくる仲間を大募集

JR「福島」駅から車でおよそ1時間。阿武隈山系北部の高原に位置する豊かな自然に恵まれた飯舘(いいたて)村。標高は400m前後で一年を通じた平均気温は約10℃と冷涼な気候が特徴です。

村の全域が計画的避難区域に指定され、全村民避難という状況に見舞われてから8年。2017年3月31日に避難指示が解除(一部継続)され、飯舘村では今新たな村づくりがスタートしています。
地域が抱える課題は山積みで、目の前の生活を立て直すのはもちろん、50年先、100年先を見据えた村づくりの視点が必要。そんな中、村の未来を一緒につくっていける仲間として、地域おこし協力隊を募集しています。
飯舘村の現状や課題、地域おこし協力隊に求めることなどについて、これまで村の復興を牽引してきた村長をはじめ、移住・定住担当の役場職員、今年から活動している先輩地域おこし協力隊にもお話を伺いました。

飯舘村の「暮らしぶり」や「生きざま」をあらわす“までいライフ(MADAY LIFE)”

福島県浜通りの北部に位置し、阿武隈山系の豊かな自然に恵まれた飯舘村。村の中央を流れる新田川(にいだがわ)と北部の真野川(まのがわ)、南部の比曽川(ひそがわ)に沿って農地が広がり、美しい田園風景がそこにはありました。

2019(令和元)年11月現在、かつて5,500人いた村の現住人口は、避難指示の解除以降およそ1,000人にまで回復し、全国からの移住者も70人を数えるなど、新たな胎動が村内のあちこちから聞こえて来ています。

村の第5次総合振興計画(平成17〜26年度)に掲げられた村づくりの目標“までいライフ(MADAY LIFE)”は、飯舘村が本来持っている歴史や風土に根ざした「暮らしぶり」や「生きざま」の指針になるもの。新たな村づくりをスタートさせる今だからこそ、改めてその意味について想像力を膨らませてみる必要がありそうです。

飯舘村を語るうえで外せない“までい”という言葉の意味について、元々は酪農家で、平成8年以降、飯舘村の村長を務め、東日本大震災以降の復興の指揮もとってきた菅野典雄村長にお話を伺いました。

「“までい”という言葉には、「手間ひまを惜しまず」「丁寧に」とか、「時間をかけて」「じっくりと」などいろいろな意味が込められていて、たとえば「食い物はまでいに(大切に)食えよ」とか「子どもはまでいに(手間ひまを惜しまず)育てろよ」など、子どもの頃から、親や村の年寄りに教わってきた言葉のひとつです。」

村の第5次総合振興計画の指針を立てる際、“スローライフ”という言葉をより身近な言葉で表現しようと、地元の方言を使った“までいライフ”と言い換えたのが始まりだそう。
2017(平成29)年8月にグランドオープンした道の駅も「までい館」と名付けられ、「までいブランド」の確立も村の課題のひとつとして位置づけられています。

飯舘村にはチャレンジする余白がある

2018(平成30)年7月、村の課題を解決するひとつの施策として、「移住定住交流推進対策室」が設置されました。避難指示から8年という歳月を経て、福島市をはじめ近隣の自治体ですでに新たな生活の基盤を整えている村民が多い現状を踏まえ、「移住・定住・交流」事業への本格的な取り組みがスタートしました。

室長を務める愛澤さんにお話を伺うと、「村の課題は、人口減少により地域共同体の存続が厳しくなることです。」とのこと。

「20ある行政区の年間行事や共同で行う草刈り作業などは、避難先から人が集まってやっています。」

また農業を辞める人が増えて、農地が荒廃していく耕作放棄地の課題もあります。

「他にも、飲食店をはじめとした小売業が戻ってないので買い物は不便かもしれません。」

しかしその一方で、「お店が少ないからこそ、外から来た人が新たに始めるチャンスがある」と愛澤さんはいいます。

「飯舘村には新たなビジネスのチャンスがあるし、新たなチャレンジで生活を成り立たせることができる。そんなライフスタイルを提案・発信できる人に来てもらいたいですね」 と、地域おこし協力隊の募集を始めた背景についても教えてくれました。

「農業や小売りサービス業にもビジネスチャンスがありますが、それ以外にも、飯舘村には、充分に機能していない魅力的な資源があるんです」 と愛澤さん。

ここでいう「機能していない資源」というのは、使われなくなった「飯樋(いいとい)小学校」の校舎や、大浴場や岩盤浴を備えた宿泊施設「きこり」などの施設のこと。 これらの施設を活用して、新しいコトを起こしてくれるような人に来てほしいのだと、愛澤さんはいいます。

そこで、今回はこれらの施設について、2019年4月から飯舘村地域おこし協力隊として活動している松本奈々さんに案内していただきました。

大浴場と岩盤浴が人気の宿泊施設。食事が提供できないのが課題

宿泊体験館「きこり」は、飯舘村役場から車で10分ほどの山の中にあります。和室・和洋室・コテージを合わせて11室の宿泊施設で、大浴場、岩盤浴も兼ね備えています。

地域おこし協力隊の松本さん。きこり施設内の大浴場の前で。

地域おこし協力隊の松本さん。きこり施設内の大浴場の前で。

支配人の佐藤峯夫さんに話を伺うと、震災以前は忘年会や新年会、同窓会など、名物の牛肉や地産地消にこだわった料理を求め、地域内外の多くの方の利用があったそうです。
震災後、2016(平成28)年3月末に営業再開し、復興関係者を中心とした宿泊利用、入浴利用はあるものの、観光での利用や地域の方の宴会利用などは大幅に減っています。

きこり支配人の佐藤さんと、地域おこし協力隊の松本さん

きこり支配人の佐藤さんと、地域おこし協力隊の松本さん

また現在は食事の提供ができない状況が続いていて、宿泊者を受け入れるにあたっても、課題の一つになっているようです。

支配人:「厨房の設備はあるので、お客様の数がある程度見込めれば食事の提供も再開できるんですが…。家族連れや団体客が減って、お一人様の利用が増えたため、11室しかない宿では、食事提供をしても採算が合わないんです。あとはやはり、飯舘村ならではの売りにできるような料理が無いというのも課題ですね。」

震災前は特産品であった飯舘牛や高原野菜、山キノコといった食材を提供できない状況にあるため、目玉になるような料理を用意できないという課題も抱えています。

村内に飲食店が少なく、宿泊施設での食事提供もないため、宿泊客はコンビニ等で簡単な食材を買い込んで食べるケースが多いのだとか。せっかく飯舘村に来てもらっているのに、その土地らしい食事を提供できないのは残念なことです。

松本さん:「私も、移住する前に一度泊まったことがあるのですが、広々としたお部屋でとても快適でした。岩盤浴はプラネタリウムみたいに天井に星空が映るんですよ。食事については、その時は、デッキでバーベキューをやらせてもらいましたね。」

広々としてきれいな和室

バーベキューは、松本さんが宿泊した際に特別にやらせてもらったものだそうですが、宿としての食事提供ができない現在、焚き火やバーベキューといったアイデアでこの問題を解決し、きこりでの宿泊体験を魅力アップできる可能性もありそうです。

また、使われていない厨房施設を活用して、宿泊客への食事提供のほか、高齢者への配食サービスやケータリングなど、村としてのセントラルキッチン機能をつくるなど、村を活性化するアイデアも広がります。

コテージもあります

コテージもあります

きこりの玄関にて。ぜひ一度、泊まりに来てください!

きこりの玄関にて。ぜひ一度、泊まりに来てください!

クリエイティブな活動の拠点として活用したい「飯樋(いいとい)小学校」

続いて、飯舘村役場から車で5分ほどの場所にある「飯樋小学校」を案内してもらいました。

飯舘村では2020(令和2)年4月から、「義務教育学校」が始まる予定で、現在は役場の近くにある飯舘中学校の新校舎で、小学生・中学生が一緒に学校生活を送っています。そのため「飯樋小学校」の校舎は震災以降、使われていない状況が続いています。

福島県産の杉材も使われている、木質化された建物内

福島県産の杉材も使われている、木質化された建物内

飯樋小学校の校舎は、普通の小学校のそれとは大きくかけ離れています。
外観も十分に洒落ているのですが、校舎の中に足を踏み入れると、さまざまな工夫が施された個性的なつくりに、圧倒されます。

愛澤さん(右)と同じく移住定住交流推進対策室の梅津さん(左)

愛澤さん(右)と同じく移住定住交流推進対策室の梅津さん(左)

愛澤さん:「見てのとおり、ここは普通の小学校ではありません(笑)。建物自体が人の創造力をインスパイアする構造になっているんです。児童の発育に合わせて低学年棟・中学年棟・高学年棟と大きく3棟に分かれ、隠れ家的なスペースがあったり、作業ができる広々とした多目的スペースが設けられていたり。訪れた人がみんな『ここで何かやってみたい』と思えるような建物ですね。」

子どもが走ってもいいようにつくられた廊下

子どもが走ってもいいようにつくられた廊下

階段の上には、子どもたちの隠れ場所がある

階段の上には、子どもたちの隠れ場所がある

雑誌の創刊号の表紙ばかりを集めた展示スペース

雑誌の創刊号の表紙ばかりを集めた展示スペース

松本さん:「私は今、地域おこし協力隊として、村内の写真を撮影して、情報発信する活動を行っているのですが、この校舎の一室を借りて写真を展示させてもらっています。」

写真展示スペースの前で

写真展示スペースの前で

「学校ですからスペースはいっぱいあります。ワークショップもできますし、アトリエ的な使い方でも良いでしょう。クリエイティブな人材がたくさん集まる拠点になったら面白いなと思っています。」

今後、建物の改修が予定されており、防災拠点としての役割も果たせるよう宿泊機能を備える計画もあるそうです。
アーティストやクリエイターが集まり、新たな価値が生まれ、発信される場所に生まれ変わる可能性のある飯樋小学校。この場所を使って、一緒に飯舘村の未来をつくってくれる方を求めています。

“土”と“風”が折り合って、新たな土壌ができる。そんな新しい“風”を吹かせてほしい

ここで改めて、今回の地域おこし協力隊募集の背景や、飯舘村に来て欲しい人物のイメージなどについて、菅野典雄村長にお話を伺いました。

「村長になる前に飯舘村の公民館長をやらせていただいたんですが、そこで“人づくり”というのがものすごく大切だということを学びました。村長になってからは福祉もあるし建設もあるし、やるべき仕事はいろいろあるんですけど、やはり大切なのは“人”、人材をいかに育てていくかだなと実感しています。」

「現在の飯舘村を見ると、かつて6,000人いた人口が、1000人まで減っています。それを元に戻すということよりも、ここにどういう人が住むかが大切なんだと思います。また村の外に住んでいるけれど、何らかのかたちで村に関わっていただくというのでも良いのかも知れません。」

飯舘村の人々は「これまではどちらかというとよそ者に対するアレルギーがあった」と村長はいいますが、震災を経験してその認識が変わり、よそから入ってくる人に対してもオープンになってきているそうです。

「6,000人いた村が1,000人になった中で、よその人たちの力を借りながら再生していくと、それまでの考え方を変えてみることも必要かなという気づきになって。そういうところから、違う考え方や思いを受け入れられる土壌ができるのではと期待しています」

「よく地元の人たちを“土”、外からいらっしゃるみなさんを“風”にたとえて話をするのですが、くすぶったり、ぶつかったりしながらも、そこで“土”と“風”が折り合って、ちょっと変わった人間もいたりして、また新しい村づくり、その土壌ができたら良いなと。ぜひ、新しい“風”を吹かせてくれる方に来ていただきたいですね。」

飯舘村の資源や施設を活用して、自分のやりたいことにチャレンジを!

続いて、新しい地域おこし協力隊に対して、具体的にチャレンジしてほしいこと、ミッションについても、お話をお伺いしました。

本記事でもご紹介した、宿泊体験施設「きこり」や「飯樋小学校」の活用をはじめとした地域おこし協力隊募集についての募集概要・ミッションについては
→飯舘村の100年先を考え、自ら行動できる地域プロデューサーを募集
に詳細を記載していますが、ここに書いてある以外でも、飯舘村の施設や資源を活用して、自分のやりたいこと、生きがいを見つけてくれる人であれば大歓迎とのこと。

飯舘村での暮らしや仕事のつくり方については、旧「草野幼稚園」を活用して鍛冶(かじ)工房を開いた「やすらぎ工房」の二瓶さんの例も交えながら話をしてくれました。

「やすらぎ工房」では、飯舘村の空き施設を工房として活用しつつ、作る包丁は、主にアメリカやカナダといった北米に輸出し、海外をマーケットにした商売をしています。一方で、工房の一角に誰もが立ち寄れるギャラリーをつくり、村の人との接点もつくっています。

使われなくなった幼稚園施設を活用した「やすらぎ工房」

「今の時代、人口が1,000人だから商売ができないということではなく、ネットとか別の販路でお金を稼ぎながら、村の人も立ち寄れるような空間を作るということも可能なんです。でも、“土”の人だけだと、なかなかこの発想が出てこない。
これが“土”と“風”が折り合って生まれる新しい土壌で、“できない”と考えるか“できる”と考えるかの違いなんですよね。こういうよその人の“できる”という発想が、新しい村づくりのスタートになるんです。」

「いろいろと申し上げましたが、村の中には今、数えたらきりがないくらい課題がいっぱいあります。それを一つでも二つでも、住民との接点の中で、解決まではいかなくても、誰かが手を差し伸べてくれているんだなということを伝える役割を担っていただける方がいればいいなと思います。」

課題の多い飯舘村だからこそ、“できる”の発想で、新しい村づくりを一緒に担ってくれる人材を募集しています。
今回、村長の想いに直接触れ、一緒に飯舘村の未来を考えるイベントを開催予定ですので、飯舘村の村づくりや地域おこし協力隊に関心のある方は、ぜひご参加ください。

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ココロココ編集部

ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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