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2018年2月5日 ココロココ編集部

起業を視野に入れながら、秋田でパラレルキャリアを実践中の伊藤美波さん

企業の副業・兼業解禁のニュースが話題になる中、秋田県にも複数の仕事と非営利活動を兼務する、いわゆるパラレルキャリアを実践する女性がいます。
秋田市出身の伊藤美波さんは首都圏で公務員として、障害者支援や福祉の仕事に就いていましたが、2016年5月にUターンしました。現在は、「誰もが誰かに必要とされる社会」を目指し、地域から人が孤立しないための手段として「コミュニティカフェ」を開業するため準備中です。その思いや移住の経緯など、お話をうかがってきました。

秋田県では異色!伊藤さんの働き方

秋田市出身の伊藤美波さんは、大学進学で地元を離れ、卒業後は首都圏で公務員として働いていました。2016年5月にUターンし、現在は、本業として人材コンサルティング会社の営業企画職として勤務しながら、空いた時間でカフェ店員としても働き、さらに週末などは非営利のコミュニティを主宰、という生活を送っています。

本業の仕事以外に仕事を持ったり、社外の非営利活動に参加して、第2のキャリアを築く働き方は、いわゆる「パラレルキャリア」と呼ばれています。経済学者のピーター・ドラッカーが著書『明日を支配するもの』で推奨しているもので、副業と違って社外活動に報酬の有無は関係ありません。伊藤さんの存在は、秋田では特に珍しいかもしれません。

伊藤さんが目指す“第2のキャリア”を詳しく聞く前に、非営利のコミュニティ活動についてうかがいました。主宰する2つのコミュニティは、立ち上げの経緯も役割も異なる活動ですが、伊藤さん自身のUターン経験がもとで始めた活動です。

「移住って仕事を辞めたり住環境も変わったり、すごくエネルギーの要ることですが、なかなか相談できる相手がいません。そこで気軽に相談できる場を作ろうと、秋田に戻ってくる前に、秋田に縁のある首都圏在住メンバーと『秋田女子ぃーず』を立ち上げました。活動期間2年の間に、私を含む3人が秋田に移住しました。今後1〜2年のうちに移住を予定しているメンバーもいます。それぞれが移住の当事者になったり、応援役になったり、とてもいい関係を築けています。」

「もうひとつの『モンブラン航空』は、秋田に戻ってきてから、社会人どうしのつながりを作りたいと思って、同世代の女性と立ち上げたユニットです。毎月内容を変えて、お稽古事の教室を開いています。これまでラテアートや和菓子作りなどやってきました。コンセプトにあるのは『心の更衣室』です。都会に比べて家庭・仕事以外のサードプレイスが少ないと思ったのが立ち上げのきっかけです。」

秋田女子ぃーずでの活動の様子


地域が持つ課題を「コミュニティカフェ」という手法で解決に導きたい

伊藤さんが関わっている取り組みの数だけ聞けば、かなりパワフルな女性を想像するかもしれませんが、ご自身は気負いもなく、とても自然体。内に秘めた情熱はどこからくるのでしょうか。そして目指す“第2のキャリア”とは。きっかけになった公務員時代の経験からうかがいました。

「仕事でホームレスや高齢者の方と接する機会があったのですが、地域から孤立している人が多いと感じていました。そういう地域課題を何とか解決できないかと考えていた時に、たまたま研修で訪れた、NPOが運営しているコミュニティカフェ にヒントを得ました。そこでは普段、地元の野菜を販売していて、誰でも気兼ねなく立ち寄れます。さらにカフェとしても営業していて、イベントでは低価格で食事を提供することもあります。子供から高齢者、障害を持った方でも交流できる空間でした。見た目はカフェなのに、実は孤立から人を救っています。地域課題の解決といっても、会議室の堅苦しい雰囲気ではなく、居心地のいいカフェが問題解決の機能を持っていることに、感動すら覚えました。」

「このようなコミュニティカフェを秋田にフィットする形で実現したいと模索しているところです。スタート以外はできるだけ補助金に頼らない仕組みで運営していきたいので、今は働きながら、継続するためのノウハウ、人脈づくりなどのために勉強している身です。」

伊藤さんがカフェ店員として勤務しているのは、リラックスした場づくりや接客を学び、コミュニティカフェの運営に活かすためでした。本業の営業企画でも、様々な仕事に貪欲に挑戦することで公務員時代とは違った経験を積み、人脈を広げています。主宰している2つのコミュニティも、その運営を継続すること自体が、将来のコミュニティカフェ開業のために活かされるはずです。

秋田に戻ろうと思ったきっかけは東日本大震災

なぜコミュニティカフェを秋田で始めようと思ったのでしょうか。そこにはUターンを考える出来事がありました。

「2011年の東日本大震災ですね。電気が止まり、交通網が遮断されると、途端に機能停止に陥る都会の暮らし。便利ではありますが、ギリギリのバランスで成り立っているのではないかと思いました。ところが震災後も首都圏では高層タワーマンションがどんどん建設されていく。そんな状況になんだか疑問を持つようになり、自分にはもっと地に足がついた暮らしが合っていると感じ始めました。それに、家族ともっと一緒にいられる人生にしたいとも思うようになって。」

震災を機にふるさとへの思いを強くした伊藤さんは、首都圏で開かれる秋田県のイベントに顔を出すようになり、そこで知り合った人たちとのつながりで、退職後は五城目町で団体スタッフとして1年間勤務しました。五城目町は伊藤さんの出身地、秋田市の北にあります。「地元に戻る前にほかの市町村も知っておきたかった」伊藤さんはここで、地方での拠点づくりについて学んだ後、 地元秋田市に戻ってきました。

本業である人材コンサルティング会社での仕事の様子


起業の前に、一度考えてみてほしい別の選択肢

伊藤さんに、パラレルキャリアの現実について、本音を聞いてみました。

「正直にいうと、パラレルキャリアという働き方は移住前には想定していませんでした。でもこれからの世の中を考えていくと、もっと増えていくと思います。パラレルキャリアの良さは、自分らしい働き方、生き方ができること、そして“業務”ではなく志で活動ができることにあります。ただ、いろいろなことを並行してやっているので、『結局何がしたいの?』と訊かれる場面も少なくありません。それでも徐々に認めてくれる人が増えていると感じています。」

最後に、秋田への移住や起業を考えている方に、アドバイスをいただきました。

「地方に移住して起業する生き方が全国的に注目されているのはいいことだと思うのですが、“人生をかけて手に入れたい生き方”を起業によって手に入れようとする方がいらっしゃれば、その前に、ほかに選択肢がないかどうか考えてみてほしいです。なぜかというと、地方の企業は労働力が不足しています。持っているスキルを活かせる場所は、起業でなくてもあるかもしれません。ぜひそういった相談の場として、『秋田女子ぃーず』を活用してみてください。秋田縁のメンバーがいるので『味どうらく』(秋田県でおなじみの万能調味料)あるあるでも盛り上がりますよ。これは秋田県人ならわかってくれると思います(笑) 」

秋田でのリアルな暮らし、仕事、そして伊藤さんが実践しているパラレルキャリアについて、興味がわいたなら、ぜひ「秋田女子ぃーず」にコンタクトしてみてください。同じように考え、悩んでいる女性同士話すことで次への道が開けるかもしれません。

文・写真/藤野里美(株式会社キミドリ)

取材先

伊藤美波さん

秋田県秋田市出身。首都圏で公務員として障害者支援や福祉の仕事に就いていたが、2016年5月にUターン。現在は本業だけでなく、「秋田女子ぃーず」「モンブラン航空」の2つのコミュニティを主宰し、「パラレルキャリア」を実践している。

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ココロココ編集部ココロココでは、「地方と都市をつなぐ・つたえる」をコンセプトに、移住や交流のきっかけとなるコミュニティや体験、実際に移住して活躍されている方などをご紹介しています! 移住・交流を考える「ローカルシフト」イベントも定期的に開催。 目指すのは、「モノとおカネの交換」ではなく、「ココロとココロの交換」により、豊かな関係性を増やしていくこと。 東京の編集部ではありますが、常に「ローカル」を考えています。

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