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2020年2月17日 岩手移住計画

「デザイン思考」で地域資源に新たな光を当てる人たちを訪ねる 岩手県移住交流体験ツアーレポート

ご家族・ご夫婦向けのモニターツアー として実施した前回に続いて、2019年度の最終回となる今回は「県南de地域資源×デザインツアー」をテーマに参加者を募集。たくさんの応募の中から、首都圏を中心に愛知県、大阪府にお住まいの方など16名で実施しました。過去にこのツアーに参加しその後に移住した「先輩移住者」を訪ねたツアーの様子を、ツアー運営に参画している 岩手移住計画 の手塚がレポートします。

「旅するデザイナー」 × 一次産業に光を当てるUターンデザイナー

今回のツアータイトルにある「県南」というのは、岩手県の南部のこと。今回主に滞在するのはこの地域にある奥州市と北上市。……ですが、金曜日のお仕事帰りに岩手入りする参加者の移動の便もかんがえて盛岡市に近い県央(県の真ん中あたり)の紫波町に宿泊し、初日の朝は紫波町の山間部にある「箪笥工房 はこや」を訪ねました。

はこやで待っていてくれたのは、ここで体験型民泊を営むベテラン移住者の木戸良平さん・章子さん夫妻と紫波町地域おこし協力隊の佐々木由美子さん、永井尚子さん、そして、今回の1人目の先輩移住者の「ヨハクデザイン」の屋号で活動する旅するデザイナー武田明子さん。

武田さん(右)からモバイルハウスでの過ごし方の紹介。左は佐々木さん。

武田さんは2016年度の移住交流体験ツアーに参加し2018年に岩手県央の矢巾町にお引越し。矢巾町の自宅を拠点に、軽トラックをリノベーションしたモバイルハウスで全国を旅しながら、デザインのほか、小規模な事業者への販路開拓のコンサルティングやSNSの情報発信のサポートなどの仕事をしています。

当初は、東京のクライアントからの仕事が大半でしたが、現在では岩手県内の企業や個人から受注した仕事が売上の3割ほど。「岩手は新しい仕事を創り出せる場所だと思う。岩手に引っ越す前に県内のシェアオフィスに入居するなど、住んでいなくても自分の居場所を作れたことが結果的に岩手移住のきっかけになった」と振り返りました。

佐々木さんは紫波町出身で、京都市内の建築資材メーカーにデザイナーとして勤務した後に、紫波町にUターンし、地域おこし協力隊として町内の農家のプロモーションをサポート。ブランディングや商品ラベルのデザインなどを手掛けています。「協力隊は自分を試せる機会がたくさんある。小さい地域ならではのしがらみも受けやすいけれど、協力隊だからこそ受ける恩恵もたくさんあり、その後の独立にもつなげやすいと思う」と話しました。

ベテラン移住者の暮らしの知恵と匠の技

20年以上前にIターンで岩手に移住した「箪笥工房 はこや」の木戸夫妻は中山間地域での暮らしの紹介。半径3キロ圏内で採れる果物で作った10種類のジャムや自宅敷地内のクリの木や道路向かいのクルミの木から採った実で作るお菓子、集落の郷土芸能や運動会の様子などが紹介されました。

すべて近くで調達した材料で作ったおやつとお茶を味わいました

住まいのすぐ近くにある民家を夫婦2人でリノベーションし民泊許可を得るまでの過程も紹介され、参加者からは断熱方法などについてたくさんの質問が上がりました。

伝統を新しい視点でアレンジする奥州の工芸

車で1時間ほど南下し奥州市へ。JR水沢駅のすぐ近くにあるCafe&living Uchida でランチを取りながらオーナーでデザイナーとしても活動するコカゲスタジオの川島佳輔さんからカフェオープンまでのリノベーションや奥州市と連携したwalk on soil のプロジェクトについての紹介を。

元画材店をリノベーションしたおしゃれな空間でランチ

ここからは地域の小さな旅の魅力を国内外に発信するWalk on Soil を担当する地域おこし協力隊・小川ちひろさんのアテンドで市内を巡ります。

東京都出身の小川さん

地域おこし協力隊の募集内容に興味を持ち、初めて奥州市に来て移住を決めたという小川さん。台湾むけにSNSなどで奥州を発信したり、地域の人や資源にフォーカスしたイベントの企画運営などを担当しています。

まず小川さんと訪ねたのは、岩谷堂タンス製作所。十三代目で専務取締役の三品綾一郎さんが経営に加わってからは伝統的なタンスの制作だけでなく、iwayado craft のブランドで生活雑貨や小物も手掛けるようになりました。参加者は三品さんとタンスや小物を制作する工房を見学し、工房で加工した木材を使ったツールボックスづくりを体験しました。職人の高齢化が進む中で積極的に若い世代の採用にも取り組む同社の取り組みや匠の技が光る商品に参加者は興味を持った様子でした。

三品さん(写真右)のアドバイスを受けながら、参加者みんなでものづくりを体験

完成したツールボックスは各自でお持ち帰り

続いては1852年創業の南部鉄器製造大手のOIGENへ。世界的デザイナーとの協業で開発した鉄器やパン焼き用の鍋など、現代の暮らしに合ったモダンな鉄器が並ぶショールームで、UターンIターンの社員3人に、奥州での暮らしや南部鉄器にかかわる仕事について伺いました。

入社7年目の橋本太郎さんは両親が岩手県出身で幼少期から足を運んでいました。東日本大震災をきっかけに、岩手のために自分にできることを考え、岩手の伝統的な産業である南部鉄器にかかわる仕事を選んだと言います。「通勤しながらも四季を感じることができ、生きている実感が持てる。冬の積雪や寒さは慣れるまでは大変」と話してくれました。

両親が岩手出身の橋本さん(右)と県外の大学卒業後に岩手に戻って働く若手社員の皆さん

OIGENの社員や川島さん、小川さんとの交流会を開催。岩手県定住推進・雇用労働室と奥州市元気戦略室の担当者から県や市の移住促進のための施策や予定されているイベント、求人の状況などについての説明を受け、地元のおかあさんと移住者の料理人による地元食材のお料理を楽しみながら、参加者同士や地元からの参加者の皆さんと交流しました。

多様な経歴を生かし農業とかかわる人たちに出会うkitakamigohanツアー

翌日は、2人目の「先輩移住者」でデザイナーの高橋裕子さん、そして高橋さんが広報物のデザインを手掛けているプロジェクト「kitakami gohan」の細田真弓さんと合流しました。

高橋さんは2015年の移住交流体験ツアーに参加し翌年、北上市にUターン。地域のおみやげのプロモーションにデザイナーとしてかかわるなど地域おこし協力隊として活動した後、Iターンの仲間たちと起業、祭り法人射的を立ち上げました。北上市の食材や農業者を発信する「きたかみごはん新聞」にもデザイナーとしてかかわっています。山が身近にある北上の暮らしが恋しくなりUターンを決めたという高橋さん。当初は協力隊任期中にデザイナーとして勤務できる職場を探し再び就職しようと考えていましたが、仲間たちとの出会いで起業に踏み切りました。

高橋さん(右)と細田さん(左)

まず奥州市内のカフェミズサキノートを訪問、経営者の及川由希子さんから「江刺りんご」を使ったジュースやスウィーツで人気店となったお店を始めた経緯をお聞きしました。

仙台市出身の及川さんは大学卒業後に仙台市の広告制作会社でプランナーとして勤務、奥州市出身でデザイナーの健児さんと知り合って結婚。仙台や長野での生活も経験しましたが、リンゴ農家を営む健児さんの実家に家族で戻ることになりました。「慣れない土地に住むことに不安もあり1年くらいは悩みましたが、最後は『ここの暮らしが無理なら仙台に戻ればいいや』と思うようになりました」と振り返りました。

子育てとカフェ経営両立には苦労もあったという及川さん

江刺りんごは皇室献上品に選ばれるなど全国でも有数のブランドですが、一家の移住直後に雹(ひょう)が降り地域のりんごが全滅してしまう被害を受けました。由希子さんは被害を受けたりんごをジュースに加工し、ラベルをデザインしてインターネットで販売。産直などに出回っているほかのリンゴジュースよりも高い値段で販売しましたが、好評でした。その後もイベントでジュースの販売を重ね、2010年には健児さんの実家の横にミズサキノートをオープン、イベント開催時には付近に渋滞ができるほどの人気店になりました。由希子さんは「自分の考え方次第でなにごともハッピーに持っていける」と移住や起業の心構えを離しました。

その後、北上市内の若手農家・馬場一輝さんのもと、雪下にんじんの収穫を体験。暖冬で雪が少ない今年の岩手ですが、例年より少ないとはいえ雪の下で甘みを増したにんじんを引き抜き、土の中でしっかりと成長したにんじんの生命力を感じました。

収穫したにんじんは専用の洗浄機で水洗いし、参加者の食卓へ

農業は今も家族経営も多いなか、農業生産法人化しスタッフを雇用し経営している馬場さんからは、就農を希望する参加者に向けてのアドバイスも。採れたてのにんじんを絞ったジュースを味わいながら農業や野菜についてたくさんの質問が出ました。

収穫体験でお腹を空かせた一行は、北上の食材を取り入れてイタリアンを提供するキッチンバルコネクトへ。そこでは同店に野菜を納入している農家のおふたりが待っていてくれました。仙台市出身の元自衛官の伊藤修司さんと、寿司職人などを経てUターンした高橋賢さんです。

伊藤さん(左)と高橋さん(右)

2人と一緒にランチを頂きながら、就農を決めた理由や野菜づくりのこだわりなどを聞きました。伊藤さんは「過去の仕事に比べて農業は自分がやっていることがお客さんに喜んでもらえている手ごたえがある」、高橋さんは「5Gなどの動きもあり地方に住んでいるデメリットは少なくなってきている。新しいテクノロジーも取り入れた販売方法なども取り入れていきたい」と力強く話してくれました。

最後に参加者は高橋さんの会社・射的のオフィスにお邪魔して、高橋さん・細田さんと岩手の暮らしについて意見交換し2日間を振り返りツアーは終了しました。

2日間を振り返る参加者

今年度も、過去5年間のツアー参加者の中から新たに5名の方が岩手に移り住みました。岩手移住計画では、移住したみなさんとの交流会を開催するなど岩手での新生活のサポートにも取り組んでいます。
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岩手移住計画

岩手移住計画岩手移住計画は、岩手にUターン・Iターンした人たちの暮らしをもっと楽しくするお手伝いをし、定住につなげていくために活動している任意団体です。県内各地で、「岩手移住(IJU)者交流会」と題したイベントを開催しているほか、岩手県などが主催するUIターンイベントにメンバーが参加し、移住希望者の相談にも対応しています。首都圏と岩手をつなぐ活動にも力を入れています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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