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2016年3月14日 伊藤 圭

Aターンで人とつながる喜び。北秋田市でコミュニティスペースを運営する建築家柳原まどかさん

秋田では、Uターンのことも、Iターンのこともまとめて、「Aターン」と呼んでいるらしい。大仙市協和出身の柳原まどかさんは、2013年に、マタギの里「阿仁マタギ」で有名な北秋田市に、Aターンした。現在はJR鷹ノ巣駅前で「コマド意匠設計室」と「コミュニティステーションKITAKITA」を運営している柳原さんに、Aターンのきっかけや秋田暮らしの魅力などを伺った。

 仕事で街の景観プロジェクトに関わったことで、地元・秋田を意識するようになった

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柳原まどかさんは秋田市にもほど近い大仙市協和地区の出身。大学進学のため上京し、卒業後は設計事務所でバリバリ働いていた。そんな柳原さんが田舎を意識するようになったきっかけが、群馬県の伊香保温泉で街の景観を整えるプロジェクトに関わったこと。自分達がデザインしたもので街の人が元気になったり、現地の人達とおしゃべりするのが楽しかった。いつしか、地元の秋田でも、同様のプロジェクトに関わることができたら・・・と思うようになっていたという。

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さまざまな地域で活動している方にお会いする中で、秋田県大館市で様々なアートプロジェクトを行っている「特定非営利活動法人アートNPOゼロダテ」という団体を知り、興味を持った。当時、ゼロダテは東京の神田にも拠点があったため、イベントや展示会に足を運ぶようになり、自然と知り合いも増えて関係性も深まった。2013年にゼロダテの職員募集に応募して採用され、Aターンした。配属されたのはゼロダテのJR鷹ノ巣駅前における拠点である「コミュニティステーションKITAKITA」。

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「いきなり秋田で仕事をするといっても、知り合いもほとんどいませんでしたし、ゼロダテで働けば、街の人とつながりを作れるんじゃないかなと思って、応募しました。ちょうど、秋田で仕事をしたいと思い始めたのと、ゼロダテのスタッフ募集とが同じタイミングだったんです」。

 

 ゼロダテの鷹巣撤退と同時に独立を決意

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2015年になると、ゼロダテは鷹巣から撤退することになるのだが、その少し前に、「コミュニティステーションKITAKITA」は現在の場所である河哲商店に移転しようと検討していた。ここは60キロの米俵が5千俵納められるほどの大きな倉庫で、昭和初期には店の前まで鉄道の引込み線があり、ここから貨車に米を積んで出荷していたという。往時は食料品店、ガソリンスタンド、屋上にはビアガーデンと街の顔ともいえる建物だった。芸術祭の展示会場としても使われ、壁には2011年に北鷹高校の全校生徒によってつくられた人文字作品「んだ!」が展示されている。

「こごが一番繁華街だったの。スーパーもデパートもあって。一番いがったのは昭和30年頃かな。方丈記と同じで昔の面影なんもねぇ」
とオーナーの河田哲彦さんはいう。

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ゼロダテの契約期間を終え、それを機に、独立して仕事を始める予定だった柳原さん。仕事場を探していると、ゼロダテの方から「場所と名前を継いでもらえないか」という話があったため、家具も含めいっさいを引き継ぎ、設計事務所「コマド意匠設計室」を立上げた。現在は建築をベースにした意匠業務を行うとともに、コミュニティステーション「KITAKITA」の運営、シェアオフィス運営も行っている。

 

偶然の出会いが、人とのつながりを広げてくれた

コミュニティステーション「KITAKITA」は河哲商店の一部にある。1階が「コマド意匠設計室」のオフィスと休憩所、2階は貸しオフィスと貸会議室となっている。改装は自分で行い、2015年8月に、まずは1階だけでオープンした。そこにたまたまやって来たのが「あきた保険サービス」を営む藏本光喜さん。用事があってJR鷹ノ巣駅に来たついでに、この場所が気になって様子を見に来たのだという。

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「まだ手つかずだった2階を見ていただいて、いずれはオフィスとして貸出できるようにする予定だという話をしたところ、「いつになったら完成するの?」ってて言われて、急いで作りました(笑)。その時はまだ床もない状態だったんですが、なんとか10月の後半から入っていただくことができました」と柳原さん。

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「私は、北秋田市阿仁に住んでいまして、営業店のある大館市比内まで通うのが結構大変なので、鷹巣に小さなオフィスがあればいいなと思っていたんですよ。で、たまたま様子を見に来てみたら、柳原さんがいて、オフィスとして貸し出す予定だというので、本当に偶然、神の仕組んだ罠みたいな感じです。柳原さんに出会えたのは本当にラッキーでした」と藏本さんは言う。

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「私も藏本さんと出会ってから、今までにない、新しい人とのつながりができて、そこからお仕事を頂いたりしています。これまでのつながりは、ゼロダテで出会う若い人や、休憩で来るおじいちゃん、おばあちゃんが多かったのですが、藏本さんのおかげで、お仕事をされている方など、別の層の人達と知り合うきっかけができました」。

藏本さん自身もAターンで秋田に戻って来た一人だ。高校を卒業して上京。横浜で働いていたが子育てをきっかけに戻ってきた。

「元々は根子集落(秋田県北秋田市阿仁根子)出身なんです。こっちに戻ってくるのは相当悩んだんですが、都会だと隣近所との付き合いがなくて、地域で子どもを育てるという雰囲気がない。このままではおやじらしいことがしてあげられないなと。実際に戻ってきてみたら、やかましいくらいに地域の人が世話を焼いてくれて、ほんとによかったです」。

 

「KITAKITA」でちょっとコーヒーでも。気軽に使えてつながりの生まれる場に

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現在「KITAKITA」は、観光客が電車の待ち時間に立ち寄ったり、地元の方がイベントを開催したり、様々な人に利用されている。
藏本さんによる保険のセミナー、秋田の若者ネットワークである「秋田若者会議」のイベント、商店街の店主が講師となる「商店街カレッジ」など、開催されるイベントの内容も多彩。先日は近くの雑貨屋さんのご主人が「音の幻想」というDJイベントを行ったという。
また、北秋田市の30代女性だけでつくった「*menoco(きらめのこ)」という団体の事務局としても、「KITAKITA」が使われている。

「昨年までは、観光案内所で軽食が食べられたんですけど、なくなってしまいました。駅前にはお店が無いので、ちょっとコーヒーでも・・・いうときに、KITAKITAを使ってもらえたらいいなと思います」。

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多くの人に利用され、人のつながりが生まれる場となってきた「KITAKITA」。運営している柳原さん自身は、どのように考えているのだろうか。

「私自身は、あまり情報発信や営業活動をしていないんですけど、結構、知られてきていて驚いています。新聞掲載記事などを見て、初めて会う方でも、KITAKITAや私のことを知っていてくださる方もいらして。『駅前でなんがやっているどこだか?』って聞かれたり、自分の知らないところで広がっている感覚はありますね(笑)」。

 

「KITAKITA」を続けるためにも、本業もしっかりと

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今後は、本業の設計事務所の仕事に力を入れていきたいという柳原さん。現在は北秋田市だけではなく県内全域に仕事の幅を広げている。
「今は設計事務所が『KITAKITA』の運営をしているという感じなんです。『KITAKITA』を続けていくためにも、本業をちゃんとやらないといけない。今は全部1人でやっているので、打合せや外での仕事が入るとお店を閉めて行かないといけないんです。もう少しうまく回るようになったら、カフェを別の人に任せられるといいなと思っています。この建物は広いので、どんどん改修して、ここで働く人がもっと増えればいいですね」。

北秋田で何かを始めたい人は、『KITAKITA』で柳原さんに相談してみると良いかもしれない。

 

取材先

柳原まどかさん

秋田県大仙市協和地区出身。2013年に北秋田市にAターンし、特定非営利活動法人アートNPOゼロダテにて、鷹ノ巣駅前拠点「KITAKITA」を担当。2015年に独立し、設計事務所を設立すると同時に、ゼロダテから引き継いで「KITAKITA」の運営も続けている。

community station [KITAKITA]
URL:http://www.kitakita.org/

コマド意匠設計室
URL:http://www.komado.org/

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伊藤圭

伊藤 圭青森県北津軽郡、旧金木町出身。写真家。 日本写真芸術専門学校を卒業、新聞社を経てフリー。 東京都在住ではありますが、基本的に田舎者。都会を離れ自然豊かな青梅に住んでいる。 アウトドアが大好きで、各季節ごとのキャンプは欠かせない。 2児の父。ライフワークで津軽の写真を撮り続けている。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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