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2017年3月15日 大川 晶子

“通える里山”市原市ならではのライフスタイルを体感! 「起業を目指す若者向けモニターツアー」レポート

2017年3月4日(土)、千葉県市原市南部で「起業を目指す若者向けモニターツアー」が開催されました。千葉県の中央に位置する市原市の南部。都内から車で約1時間半の立地にありながら豊かな自然が残っています。そんな“通える里山”市原市南部の魅力を体験し、二拠点生活や起業に向けての参考にするための本イベント。注目度が高く、応募多数のため抽選に。その結果、これから移住や起業を考える20代後半〜40代の約20名が参加しました。

ツアーでは、地域の食材を使ったピザを食べたり、地域のシンボル・小湊鐵道に乗ってみたりと観光資源を満喫。さらに、都内から移住してお店を開業した方のレクチャーや、廃校を活用した施設での地元の方々との交流を通じて、ローカルでの課題を解決していく方法を学び、市原市南部での暮らしをイメージしました!

10:00 市原市南部の加茂地区にある「Mai cafe」に到着!

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ビル群が建ち並ぶ東京駅からバスに乗り、わずか1時間半ほどで、のどかな風景が広がります。都内よりも少し暖かく、ポツポツと咲き始めた菜の花が出迎えてくれました。10年前にこの地に移り住んだ國岡さん夫妻が営む「Mai cafe」は田んぼの中にあります。しかし口コミで評判となり、週末や行楽シーズンには10席ほどの店内が常に満席になるそう。

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現在、5人の子どもがいる國岡さんファミリー。都内で企業勤めをしていましたが、子育て中の奥さまが田舎で暮らしたいと思うようになり、奥さまの家族がいる市原市北部に通える範囲で物件を探したところ、現在の住まいに出合いました。移住後の仕事については考えずに引越して、ご主人がしばらく大工のバイトをして過ごしていたそう。「昔は田舎暮らしなど考えたこともありませんでしたが、好きなことを見つけてやっていければなんとかなります」とご主人。周りの人に「カフェでもやれば?」と勧められたことをきかっけに、大工さんとともに全て自分たちの手でお店を創り上げ、「Mai cafe」をオープンさせました。

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國岡さん夫妻が移住やカフェを開いた経緯を話し終えると、参加者からの質問タイムに。やはり参加者は懐事情やご近所との付き合いが気になるようで、そういった質問が多く寄せられました。田舎暮らしに大切なことを聞かれると「自分たちで何かできないと難しい」と奥さま。田舎暮らしは考え方次第と話す國岡さん夫妻は、できることは自分たちでやる事で、お金をなるべく使わない“小さく回す暮らし”を実践しているそうです。

國岡さん夫妻によるざっくばらんな体験談で、笑いがもれる楽しいレクチャーでした。レクチャー後のバス車内では参加者同士が「私でもできるかな」と話すなど、田舎でのカフェ経営を身近に感じていたようです。

 

11:20 手打ちうどん・そば「一久美」で昼食

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この日は朝早くに東京駅に集合したため、お腹が減ってきた一行。パワースポットとしても知られる「高滝神社」の隣に立地し、市原市南部の水源「高滝湖」を望む蕎麦屋「一久美」でお昼ご飯をいただきました。喉越しのよいお蕎麦、おいしかったです!

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「一久美」は、市原市高滝出身のご主人が、35年前に都内からUターンをして創業。一行のため蕎麦作りに忙しいご主人に代わって、主催者である近畿日本ツーリスト中村さんから「Uターン起業」の事例として創業経緯の説明、市原市企画調整課の小橋さんから「高滝湖」や「高滝神社」など周辺の観光要素の紹介がありました。

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ゴルフ場の数が日本一の市原市では、観光シーズンだけでなく一年を通じてゴルフ客が多く訪れます。「一久美」でもゴルフ場帰りのお客さんが多く、週末は満席となるそう。人口が少ないエリアで飲食店を経営するには大切なポイントですね。

 

12:30 古民家を改修したギャラリー「アートハウスあそうばらの谷」を見学

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次に向かったのは、2010年11月にオープンした築150年ほどの古民家を活用したギャラリー「アートハウスあそうばらの谷」。春限定でJA市原市女性部がカフェを開いています。2017年4月から行われる「いちはらアート×ミックス2017」では会場になり、開催期間中は山菜の天ぷらなどが提供されるそうです。

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市原市へ向かうバスの中で、事前アンケートの結果が発表されたのですが、「田舎で起業するとしたら?」という問いに対して、1位の「観光業」に次いで、「古民家や廃校を利用した飲食店」が2位にランクイン。古民家に対して興味を持っている参加者に嬉しい、伝統的な古民家の空き家があるという市原市南部の実情が伝えられました。

しかし、いざ活用するとなっても手を入れるのが難しいところ。そこで、一般社団法人「村楽」理事で市原市の地方創生アドバイザーを務める東大史さんが、古民家のメンテナンスのポイントを説明し、参加者たちは熱心に聞き入っていました。

 

13:10 小湊鐵道線 養老渓谷駅行われる「逆開発」とは?

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市原市のシンボルともなっている小湊鐵道。養老渓谷駅をはじめ、1927年に建てられた木造平屋の駅舎は、この3月に国の登録有形文化財(建造物)に指定されるそうです。

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近隣の乗降客だけでは経営が難しくなった小湊鐵道では、休日などにトロッコ列車を運行して首都圏からお客さん呼び込んでいます。さらにお客さんを緑で出迎えたいと養老渓谷駅周辺で計画されている「逆開発」について、小湊鐵道の黒川部長から説明がありました。駅前ロータリーのアスファルト塗装を剥がし、里山の残る原風景をよみがえらせる計画です。10年後くらいの完成を予定して今年から着工します。「4月のアートミックスが開催されている頃には木が植えられている予定なので、ぜひまた市原にいらしてください」と黒川さんは参加者に呼びかけました。

 

13:50 湖畔美術館内レストラン「Pizzeria BOSSO」で地元食材をいただきます!

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途中、地元の方々が約2ヘクタールの敷地にボランティアで菜の花を植えているスポットに立ち寄りながら、湖畔美術館内レストラン「Pizzeria BOSSO」へ。

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ジビエや野菜など地元の食材料理を提供しているお店で、「高滝湖」を見渡せる立地も人気の観光スポットです。参加者は、その日採れた地場野菜といすみ市のチーズ工房で作られる「よじゅえもんチーズ」を使った「房総農家のピッツァ」、そして地元ジビエを使った「大多喜産天然イノシシのソーセージと八街落花生のピッツァ」をいただきながら、お店の方から周辺で採れる食材や集客などについて説明を受けました。

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この日の「房総農家のピッツァ」に使われていた野菜は、市原市南部で採れる「加茂菜」の塩漬け。アブラナ科の野菜で、この辺りでも知らない方がいる珍しい食材で“幻の野菜”と呼ばれているそうです。チーズとの相性抜群で、皆さんペロッと完食していました。

 

14:15 小湊鐵道線 里見駅「喜動房倶楽部」の取り組みを視察

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次に向かったのは、地域住民団体「喜動房倶楽部」が駅前で産地品などを販売している里見駅。営業日は、里山トロッコ列車運転日の土・日曜日、又は第1・3の土・日曜日で、喫茶も行っているため地域住民の交流拠点にもなっているそうです。

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かつて里見駅は1日の乗降客数が15人ほどの無人駅で、小湊鐵道が廃線になりかけていた頃もあったといいます。そんな時、地域住民が駅舎をきれいにしてお客さんを迎え入れようとボランティアで清掃を始めたのが設立のきっかけだと「喜動房倶楽部」の石井さんから説明がありました。

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徐々に産直品やお弁当を売るようになり今の形に。シーズンにはお弁当150個ほどが売れるほど賑わうそうです。説明を受けた後、参加者は産直品を買い求めていました。この日案内してくれたバスガイドさんによると「切符を切るより焼き芋を売っている数の方が多い」と言われるほど焼き芋が有名だそう。この後一行は里見駅から小湊鐵道に乗車します!

 

14:30〜14:48 小湊鐵道線 里見駅〜上総牛久駅乗車体験

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列車のダイヤは1時間に1本程度ですが、このエリアに欠かせない存在の小湊鐵道。実際に乗車して、車窓からの風景や観光客を誘致している地域の魅力を体験しました。車掌さんが車内を周って切符を売る様子も、今では逆に新鮮に映りました。

 

17:00 「内田未来楽校」でレクチャー&ワークショップ&意見交換会

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本ツアーの締めくくりは、「内田未来楽校」での交流会。「内田未来楽校」では、1928年に建てられた「旧内田小学校」の木造校舎を活用した施設で、市民団体「報徳の会」が保存活動を行っています。

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かつては畳敷きだった和裁室を改修した会場で、「内田未来楽校」の征矢さんによる校舎の歴史と「報徳の会」の活動について、そして任意団体「市原米沢の森を考える会」代表の鶴岡さんによる市原市南部の歴史と自然についてのレクチャーがありました。

昔から地域の中心であった「旧内田小学校」を守る取り組みについて、「過疎化が進む今、地域の中心的存在が欲しかったのでは」と征矢さんは振り返ります。地域のお年寄りが集まる場になっているそうで、火・木・土曜日に開かれる「内田の友 朝市」については、もう少し規模を大きくして活動の資金源になればと今後のビジョンを話してくれました。

鶴岡さんも「高齢化率が40パーセント近いこの地域で、歴史と文化がある地域の廃校を利用し、外からきた人たちと交流をすることで、訪れる人の移住や定住へとつながっていけば」と「内田未来楽校」に期待を寄せています。

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「いちはらアート×ミックス2017」の会場ともなる「内田未来楽校」では、お喋りしながら展示作品の一部を作る「てふてふ刺繍カフェ」を開催していました。これは「アート×ミックス」の埼玉の作家さんによる作品で、刺繍で作った蝶々(てふてふ)1000頭を教室だった空間にずらりと展示するというもの。(てふてふ刺繍カフェは「アート×ミックス」中も開催予定)

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通常は2時間くらいかかるところですが、今回は4〜5人のグループで協力して30分で製作。皆さん講師の方から指導を受けて和気あいあいと作っていました。今回作った蝶々も、作品の一部となっていちはらアート×ミックス2017」期間中に展示されるとあり、参加者からは「見に来なきゃね」という声が聞こえました。

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「てふてふ」の完成後は、「いちはら国府ブランド」に認定された「大石堂」製のお菓子「上総鐙(あぶみ)焼」とコーヒーをいただきながらアンケート記入しました。

本ツアーで参加者が一番楽しかったと答えた場所が「内田未来楽校」という結果に。その結果を受けて東さんから参加者に向けて、「地域の人と触れ合って何かを作る、それが一番面白いと感じられるので、そういうところからプロジェクトを起こしていくと楽しいのでは」とアドバイスが贈られました。

東さんからはさらに「廃校と移動を組み合わせると送迎のビジネスになるかも」など、テーマを二つ以上組み合わせることで答えが出てくるなど具体的なビジネスのアイディアも聞かれ、起業を目指す参加者にとって、とても参考になったのではないでしょうか。

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意見交換では参加者から、この日訪れた場所や市原市の支援制度について質問がありました。現在市原市では、空き家が増えているため行政の中で使える物件を整備していく予定とのこと。また、市原市企画調整課の河村さんは「光ファイバなどの通信等のハード面の整備はされているので、在宅ワークやコワーキングスペースについては検討したい。また、お試し居住については、隣の大多喜町などには施設が整備されているが、市原市にはまだないので東さんと検討していきたい」と話していました。

これまでベッドタウンとして人口が増えてきた市原市ですが、近年初めて人口が減少していて、その対策を模索中です。そのため、市の担当者はさまざまな意見が欲しいと話していました。

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参加者と市原市、それぞれに次へつながる課題が見えた本ツアー。「内田未来楽校」事務局長の小出さん、そして征矢さんと鶴岡さんから「お互い本気を出すことが必要」と、参加者と市原市の担当者に向けてエールが贈られ、参加者は市原市南部での暮らしを具体的にイメージしながら家路に着きました。

 

ツアーで回った各所の関連記事も是非ご覧ください!

「Mai Cafe」國岡夫妻インタビュー

「内田未来学校」事務局長 小出さんインタビュー

「いちはらアート×ミックス2017」の情報はこちらから

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大川晶子

大川 晶子1986年、静岡県三島市生まれ。エディター・ライター。 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科(近代建築史専攻)を卒業し、住宅やインテリア雑誌の編集部を経てフリーランスとして活動しています。たくさんの人・もの・ことに触れてその魅力を伝えることで、一人でも多くの方の暮らしをより豊かなものにできたらと思っています。

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 「風土」という言葉には、地形などの自然環境と、 文化・風習などの社会環境の両方が含まれます。 人々はその風土に根ざした生活を営み、 それぞれの地域に独自の文化や歴史を刻んでいます。

 過疎が進む中で、すべての風土を守り、 残していくことは不可能であり 時とともに消えていく風土もあるでしょう。 その一方で、外から移住してその土地に根付き、 風土を受け継ぎ、新しくつくっていく動きもあります。

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