ツアー開始。南房総の情報発信基地から、注目の二拠点居住お試しハウスまで
朝8時30分に東京駅を出発したバスは、2時間ほどで南房総に到着。ツアーの最初に訪れたのは「道の駅とみうら枇杷倶楽部」です。駅長さんによると、旧富浦町が町の産業と文化の拠点になるように建てた施設なのだそう。南房総地域で生産が盛んな房州びわの加工所や、地元の人が使える調理スペースもありました。
二地域居住のための「布良ハウス」を見学!
続いては、館山市布良地区にある「布良ハウス」へ。ここは、二地域居住を考えている人が気に入った物件を探すまでの拠点として利用できる、トライアルシェアハウスです。住居ではなくあくまで「セカンドハウス」の扱いですが、理想の物件探しにはお金も時間もかかることから、このような拠点があると便利です。
元々は海水浴客向けの季節旅館として使われていたといいます。少し小高い場所にある「布良ハウス」からは海を眺めることもできます。合計3家族が利用可能で、共同スペースはDIYできることも魅力の一つでしょう。
ここで、運営する「NPO法人南房総リパブリック」の馬場未織さんと内山章さんにお話を伺います。
馬場さん「ここでは、古くて寒い古民家を、自分たち好みの居心地の良い空間に変える練習ができる。使いづらいところに手を加えて、使いやすいものにしていくのも二地域居住の始め方のひとつです。」
移住者で海女さんのシェフが腕を振るうレストランで昼食
昼食は南房総市千倉町にある「Restaurant&Bar.SAYAN」。船の修理工場を半年かけてリフォームしたという店舗は、インドネシアから輸入したというインテリアが南国ムードたっぷりです。
店を切り盛りする山岸季郎さん・真純さん夫妻は、千葉に移住してから知り合い、このお店を始めました。イタリア仕込みの料理をふるう真純さん、実は海女さんでもあります。夏場は、海に潜って採った食材を使うこともあるそうです。
季郎さんは「地域での漁業権を獲得するには、地元の漁師とのコミュニケーションが大切だ」と言います。10年かかっても取れない場合もあるとか。山岸さんは、真純さんの地元が隣町だったことから2年で取れたそうですが、参加者からは驚きの声が上がっていました。
今が旬!南房総の代名詞「花」の集まる道の駅へ
「道の駅ローズマリー公園」は、洋風の建物が特徴的な道の駅。直売所「はなまる市場」では地元の農産物や加工品が販売されています。中でも目を引くのは南房総産の花々です。春の花の出荷の最盛期は1月~3月と、まさに今の時期です。「朝はすごい量が届くけど、すぐに売れていきますね」と店長の内藤高志さん。
「農家さんがいなければ、この場所だけあってもしかたない」と力をこめる内藤さんから、農家さんとの関係をとても大切にしていることが伝わってきました。
ホテルで移住相談会&交流会
本日の宿であるホテル「ファミリーオ館山」に到着。目の前には海が広がります。広い敷地内にはフットサルやテニスのコートがあり、思いきり体を動かすこともできます。
ホテル内のスタジオに集まり、移住相談会が行われました。 まずお話を聞いたのは、「南房総サイクルツーリズム協会」の事務局長、瀬戸川賢二さんです。南房総の気候の良さと首都圏からの良好なアクセス、アップダウンと平坦な道のバランスがほどよい環境を生かし、サイクリングを目玉にした観光に取り組んでいます。
20年間、外資系金融機関で働いてきた瀬戸川さん。多忙な日々が続く中、転機が訪れたのは2007年の夏休みでした。たまたま訪れた元名(もとな)海岸の美しさに惹かれ、それ以来、別荘を建てて南房総に通うようになりました。 「自分は終身雇用ではなかったので、セカンドライフの足がかりを考えていく上でよかった。個人で動いてみると、思いのほか色々なことが動くとわかり、自己実現の機会にもなった」と二地域居住のメリットを語ります。
(瀬戸川さんインタビュー記事https://cocolococo.jp/22849)
館山市商工観光課の行縄(ゆきなわ)俊一係長は「移住を考えている人には、メリットとデメリットをよく見極めてほしい」と話し、車がないと不便なこと、生活排水に必要な浄化槽の適正管理が必要なことなど、地方ならではの苦労も打ち明けます。その上で、「地域の魅力を高めることを第一に考えるとともに、移住後も全力でサポートします」と力強く投げかけていました。
相談会の後は、ホテル内のレストランで交流会が開かれ、「雑草の話は聞いておいてよかった」「移住先はどこを考えていますか」など、参加者同士で会話が弾んでいました。
レンタルサイクリングに釣りに。アクティブな2日目!
2日目は朝からアクティブ。宿泊した「ファミリーオ館山」では自転車がレンタル可能で、早起きしてサイクリングに出かける参加者も見かけました。
あるご夫婦は、朝5時に起きて釣りに出かけたそう。「全然釣れなかった」と笑いながら、今度は自転車に乗って出かけていきました。
「農のある暮らし」を体験する古民家&畑で農業体験!
最初に訪れたのは、古民家を「農のある暮らし」を体験できる施設として改装し、農家民宿の開業準備を進める「土の環」。古民家に入り、運営する土屋裕明さんにお話を伺いました。2014年に家族で南房総に移住した土屋さんは、農業法人での農業研修を経て、住まいを館山に移します。
農地付きの物件を探しても、なかなか見つからなかったそうですが、ちょうど知り合いから畑つきの物件が売却されるという話を聞き、古民家と土地を購入。その後は、地元の職人さんと協力しながら2年ほどかけて少しずつ改装を進めていきました。
「農作業や草刈り、家のメンテナンスなど、田舎って意外とやることが多いです。僕はそれもレジャーやリフレッシュの機会として取り入れています」という土屋さん。
(土屋さんインタビュー記事https://cocolococo.jp/23021)
また、古民家のすぐそばにある畑で農業体験を体験。土を耕して畝(うね)をつくり、種芋を並べます。畝づくりを体験した女性は、「くわが重くて、少し耕すだけでも疲れました」と話していました。さらに、庭では薪割り体験も。参加者が挑戦し、きれいに割れると、「おぉー」という歓声と拍手が起きていました。
古民家がシェアオフィスに!「南極スペース」
土屋さんに別れを告げ、一行は「多津味」で昼食。美味しいお刺身を味わった後に訪れたのは、館山市のシェアオフィス、コワーキングスペース「南極スペース」。以前は東京のとある社長の別荘として、夏の間利用されていたといいます。
運営する株式会社アグイジェの代表取締役、細井刀志也さんと、ここを利用するライターの東洋平さん、市内にあるクリニックに勤務する氏川智晧さんの3人から、施設の紹介やどのように利用しているのかについて紹介していただきます。
細井さんの「館山にもちょっと仕事をするところがほしい」という思いから、築80年という古民家をリノベーションしてオープンしたこのスペース。
固定ブース、フリーアドレスの利用のほかにも30分500円でのドロップイン(一時利用)も可能です。 立ち上げにも携わり、この2階に寝泊まりしているという氏川さんは、「館山には夜に過ごせる場所が少ないので、カフェや文化的な空間がもう少し増えたら」と、月に1度無料の映画鑑賞会も開催しているそう。ライターのほかにもミュージシャンなど様々な顔を持つ東さんからは、働き方、仕事の作り方について紹介がありました。
地域に無いものを、この場所とコミュニティを使って生み出していったりと、この空間の可能性を感じます。参加者は古民家内を見学した後、働き方や利用方法などについて、多くの質問があがっていました。
ツアーの締め。海の見えるカフェで振り返り
ツアーの最後は、館山市の交流拠点施設「渚の駅」の前にある「CAFÉ TSUMUGI」へ。「南極スペース」でお話を聞いた東さんの奥様が経営しています。
コーヒーを飲みながらツアーを振り返ります。昨年秋のツアーにも参加した女性は「一回住んでみて、そこを拠点にして移住先での物件を探しに行く方法もあるのだと思った。焦らずに、落ち着いて考えていきたいです」と話しました。
サイクリングが好きで、瀬戸内のしまなみ海道も走ったことがあるという男性は、「館山で走ってみて、あまり高低差がないところがよかった。全何キロ中、現在何キロ地点にいるのかがわかる標識があると、サイクリストにはより喜ばれると思う」という気づきを教えてくれました。
参加者同士でも情報を交換するなど、実際に何度も足を運びながら移住を検討している方も多いことが印象的だった今回のツアー。
実際に地域で暮らす人や、働く人、活動する人と触れ合える機会は参加者にとっても有意義な時間だったようです。
移住や二地域居住をするときに大切なことの一つは、大なり小なりあるデメリットをいかに暮らしやすく変えられるか、なのだと皆さんから教わりました。そのための知恵も吸収できたのではないでしょうか。
「いろいろなところに顔を出すようにすると、輪が広がる」と東さんの言葉にもありましたが、まずは行ってみる、今回出会った人を伝って地域の人とのつきあいを広げてみることが、移住のはじめの一歩になるかもしれません。