8回目の開催となった「半島のじかん」
「半島のじかん」は平成23年度に始まり、今回で8回目の開催となります。麦島健志国土政策局長からは「各地域と知見を共有しながら、引き続き半島政策の充実に努めていきたい」と挨拶がありました。
半島地域の移住・定住動向を知る―株式会社アール・ピー・アイ
はじめに、株式会社アール・ピー・アイの笠原さんから現在の移住・定住の動向や半島地域での取り組み事例についてご説明いただきました。
この10年で移住希望者は急激に増え、20~40代がその中核をなしているといいます。とくに重視されているのは、移住先の就労の場です。
半島地域を有する22道府県へのアンケート結果からは、いくつかの課題が浮かび上がります。まずは、多様な就業機会に乏しいという点です。対策として、起業・継業支援や二拠点居住がしやすい環境づくり、複数の仕事や収入源を組み合わせるという事例が紹介されました。
ほかには、仕事と生活の場が市町をまたぐなど生活利便性が不十分であること、SNSや移住セミナーなどの情報発信ツール、「豊かな自然環境や食材」「ゆとりある生活環境」といったアピール点が競合し、情報が埋もれがちだという指摘がありました。
笠原さんは「生活環境を広域的にとらえる」ことを提案します。「情報発信の際も、◯◯市や◯◯町と言うより、“房総半島”や“能登半島”のほうがイメージしやすいことがあります」。一方で、移住希望者の受入に際しては、集落単位など、顔の見える範囲でのケアが大事になるといいます。
続いて、半島地域で移住・定住支援や促進に取り組むゲストの事例紹介です。
能登での移住支援と「能登ゼミ」への手厚いサポート―高峰博保さん
一人目は、「一般社団法人 能登定住・交流機構」で代表理事を務める高峰博保さんです。同機構では、能登地域での仕事や住宅紹介などの移住・定住サポートと、大学のゼミ活動の受け入れを活動の軸にしています。機構のメンバーはさまざまな業種の人で構成され、能登全域に散らばっています。
設立は2013年1月、東洋大学の「能登ゼミ」を受け入れるところからスタートしました。フィールドの情報提供など手厚いサポートの甲斐あり、初年度ゼミの学生20人のうち3人の女性が能登地域に惹かれ、卒業後に移住しました。
高峰さんは、起業人財だけでなく「創造人財」も重視しているといいます。「地域の企業に入って新しい事業や商品を企画からプロデュースできる人がいれば、最終的にそこで働ける人、一緒に暮らしていける人を増やせる」との思いからです。
昨年4月から県と連携して運営する短期移住体験プログラムでは、相手の希望に合わせて仕事体験先・宿泊先・滞在プランを考えます。体験先は農園や輪島塗工房、宿泊業やメーカーなどと幅広く、「絶対数は多くないけれど、さまざまな仕事があることを伝えていく必要がある」と高峰さんはいいます。
能登では仕事をするところと住むところが行政(地域)をまたぐことが多く、勤務先は隣の市にあるということも十分考えられます。そのため、広域で横断的なサポート体制をとった方が移住の情報提供やコーディネートがしやすいのだそうです。
能登と都心を結ぶ仕掛けとは?「えんなか合同会社」―齋藤雅代さん
続いては「えんなか合同会社」代表の齋藤雅代さんです。
同社では、能登の食と健康をテーマにしたスローな旅体験「ノトリトリート」や、婚活イベントの「釣りコン」等の体験プログラムを手がけています。また、首都圏で交流イベントを開催することもあります。
斎藤さんはリクルート出身で、独立後は映像業界に進みます。能登を舞台にした映画の制作がきっかけで、能登半島の中央に位置する穴水町に移住。地域おこし協力隊として活動を始めました。SA「奥能登山海市場」や道の駅「あなみず」を立ち上げた後2016年に起業し、翌年にえんなか合同会社を立ち上げます。
※もっと詳しく!斎藤雅代さんインタビュー→https://cocolococo.jp/26773
半島フィールドワークレポート2:能登半島・穴水町編→https://cocolococo.jp/26704
「イベントやツアーは花火みたいなもの」と位置づけています。それによって地域の方々の受け入れ態勢をつくることが本当の目標です。
地域と大学を結ぶ活動にも力を入れています。2015年からゼミ活動を受け入れてきたことがきっかけで、昨年7月に大妻女子大学と穴水町が協定を結びました。斎藤さんの会社では伝統的なボラ待ち櫓漁や椿油づくりなどの体験プログラムを作っています。また、大学の学園祭で学生たちが商品化に関わったものを販売するなど、首都圏でも能登のPRを積極的に行っています。
「“はたらくところが住むところ”が地域で仕事をつくるためのポイント。行政のサポートがあったことも大きかったです。東京と能登との二拠点活動の割合をどんどん増やして、都心からも人を呼ぶ仕掛けづくり、地域からの発信を強めていきたい」と斎藤さん。
暮らしはお試しできる時代に。「金谷お試し移住プログラム」―滝田一馬さん
次は房総半島での取り組みです。半島南部の富津市にある金谷という地域では、この3年間の移住者が50人にものぼります。
自身も東京からの移住者で、「金谷お試し移住プログラム」の責任者を務める滝田一馬さんによれば、最近金谷に移住している人のほとんどがデュアルライフ(2拠点生活や多拠点生活)を送っている人、またはフリーランスとのこと。20~30代の若者が多いといいます。
こうした人々を対象としている同プログラムでは、観光施設「ザ・フィッシュ」と地域のシェアハウス、コワーキングスペース「まるも」の三者が業務提携し、移住に不可欠な「仕事」「住まい」そして「コミュニティ」の3大要素をサポートします。プログラムの利用者のうち、出入りはありますがこれまで10人が移住、5人が就労中です。
「まるも」で開講されている「田舎フリーランス養成講座(略称:いなフリ))」も移住者の増加に大きく貢献しています。これらの取組を通じて地域に定着した人がWebで魅力を発信し、それを見た人が金谷に訪れるという「人が人を呼ぶ好循環」が生まれているのだそうです。
今後の展望として、観光業のほかに旅館業や福祉分野との連携にも注目。「福祉施設はどの地域にもあり、資格があればどこでも働けます。地域にとらわれず働きたい人と相性がいい」。
さらに、株式会社Little Japanと滝田さんの運営するシェアハウス「炊きた亭」が提携し、月額定額制のパスをもつことで全国のホステルに泊まり放題になる「Hostel Life」のサービスが、金谷でも利用できるようになります。金谷の「多拠点生活の拠点化」がますます進みます。
最後に「暮らしはお試しできる時代になっている。定住にこだわらず、その地域を拠点に生活する人が増えていけばいいという前提で、間口を広く、敷居を低くすることが定住者を増やすことにつながるのでは」と締めくくりました。
※金谷での取り組みをもっと詳しく!
金谷お試し移住プログラムの記事→https://cocolococo.jp/26320
半島フィールドワークレポート1:房総半島・富津市金谷編→https://cocolococo.jp/26344
移住交流促進に効く情報発信のヒント―奈良織恵(ココロココ編集長)
「ココロココ」の編集長である奈良織恵からは、移住・定住促進に向けた情報発信のポイントをお話いたしました。
ココロココでは、Webサイトでの移住者インタビューや地域プロジェクトなどの記事掲載とイベントを組み合わせて、移住交流に取り組む自治体をサポートしています。
取材等でさまざまな地域を訪れる中で「半島」に興味を持ち、仲間とともにその面白さを共有・探求する「半島暮らし学会」を設立。主に房総半島を担当しています。半島の最南端に位置する白浜にココロマチのサテライトオフィスがあり、月に3~4回は通っています。
近年の移住の傾向を次のように分析しました。
「2000年代以前は、“移住”というと定年後の田舎暮らしというイメージがあり、宝島社の『田舎暮らしの本』も『TURNS』の前身である『自休自足』もシニアをターゲットとしていました。しかし、リーマンショックによって終身雇用に疑問を持つ若者が現れ、東日本大震災によって地元愛やローカル志向が強まった。移住はだんだん一般化してきており、2拠点生活もここ1、2年で盛り上がっています」。
そのような中で情報発信をしていく際のポイントとして、次の4つを挙げました。
①最初から定住を求めない。コミュニティの規模や濃さによって伝えるメッセージは変える必要があるが、ゆるやかなかかわりを許容する姿勢を発信する。
②地域の魅力だけではなく、バランスを見て課題も伝える。そうすることで地域活性に関わりたいというコミットの深い人にアピールできる
③外の目線と中の目線を取り入れる
④情報発信の拠点となる人と場所が大事
③について、外の目線としては多様なメディアやサービスの活用が、「中の目線」の例としては、岩手県花巻市の魅力を市民ライターが発信するWebマガジン「まきまき花巻」を挙げました。「まきまき花巻」では、ココロココもライター養成講座の運営などに携わっています。
④については、「情報を媒介するものはすべてメディアである」と考えると、町内の回覧板やおばちゃんのおしゃべり、ゲストハウスもメディアになりうると考えています。
神奈川県の真鶴半島にある“泊まれる出版社”「真鶴出版」の例では、夫婦が出版物をつくりながら運営するゲストハウスに宿泊すると、自動的にまち歩きがついてくるというサービスを紹介しました。
以上のポイントをふまえたうえで、半島地域のことをどのように伝えていけばいいのでしょうか。その答えとして「まずは、半島の課題や困りごとを積極的に発信して問題解決型の人材に訴求する。また、海も山もある半島ならではの暮らしの多様性を伝える。半島であることをもっとアピールし、行政単位ではなく半島単位で連帯感をもって発信していく」と考えをお話しました。
ここが知りたい!ゲストQ&A
最後に、参加者から寄せられた質問にゲストが答えます。
各事業の予算規模や財源、主な収入源などの具体的な質問が多く挙げられた中で、高峰さん、齋藤さん、滝田さんの3名が、それぞれ詳しく説明していました。
「企画力・行動力のある人に移住してもらうには」という問いには、斎藤さんが「移住者でも地元の人でも、企画・実行の流れを知っている人はそんなにいないのでは。企画の立て方などを実践できるようなワークショップを増やすなど、育てていくしかない」と回答しました。
滝田さんは質問に応じる中で、移住のターゲットはフリーランスに限らず、「自分の地域の特性を見極めて」とアドバイス。また現在は民間だけでプロジェクトを進めていますが、今後シェアハウスの定員より受け入れ人数が増えた場合は新しい物件を確保する必要があります。「短期移住のための拠点の改修費を相談するなど、富津市と絡んでいきたい」と話しました。
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移住・定住のトレンド分析や実践者の話から、半島地域での取り組みのヒントを知ることができた濃い3時間半でした。
移住希望者のサポートに加え、大学連携など首都圏との交流を図る事業や、デュアラーを引きつけるための拠点づくりは全国に広がっています。また、体験プログラムやイベントを用意し、人の流れをつくっていくことが大切だと感じました。
何度も登場したのが「広域連携」「半島単位でやっていく」というワード。半島振興を進めていく中で、鍵になりそうです。